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2015.04.10

イタリア・テニス場やパブの雑談から誕生するイノベーション/ヨーロッパ4カ国4賢人が披露する「地域活性化の叡智」(4)

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GIOACCHINO GAROFORI University of Insubria
インスブリア大学 ジアッキーノ・ガロフォリ教授
『産官学連携の協働作業は簡単なことから生まれます』


ガロフォリ教授は、地域とイノベーションの関わりが密度の上でも歴史の上でも深いフランス南東部の都市グルノーブルに、地域振興のヒントが隠されていると考える。この地では、200年以上も前にすでにイノベーションの萌芽が生まれていた。19世紀末には大規模な水力発電が工業に使われるようになり、1898年には電気技術研究所が創設されている。

「グルノーブルでは、ノーベル物理学賞を受賞したルイ・ネールや産業経営者らがmilieu(フランス語で「環境」「職域」)を超えて共通の土壌で仕事をしていました。イノベーション・パークも1971年の段階で創設されています」

 研究機関、政府・自治体もイノベーション文化を積極的にバックアップする。

「マイクロ・エレクトロニクス、電気機器、情報機器、セメント、アルミ、通信機器、化学、製紙などあらゆる分野の研究がなされており、学生の40%以上は科学分野に特化しています」

 ガロフォリ教授は、企業の開発部門や大学の研究者など異なるアクターによる“交配受粉”のような交流がイノベーションにとって重要だと強調する。

「イタリアでは、大学や研究機関と企業は20~30km圏内にあります。同じ産業地区の中に大学と企業が共存しているにもかかわらず、今まで産学の交流は盛んではありませんでした。これは大きな懸念事項です」

 フランス・グルノーブルのように、産官学が協働してイノベーション文化を構築する。その協働作業は、決して難しく考える必要はないと教授は指摘する。

「残念ながら、イタリアの私の同僚は90%以上が社会的責任を果たしていません。民間の研究機関であろうが大学の研究者であろうが、誰もが地域の発展に貢献する責任があるのです。物理的な近接性を生かし、休憩時間に企業の開発部門の担当者と研究者がテニスをすればいいではありませんか。仕事が終わったあとにパブに集まり、ビールを飲みながら情報交換すればいいのです。草の根レベルのインフォーマルな人間関係がきっかけとなり、フォーマルな協力関係、正式な協定合意に結びつくこともあるでしょう。地域経済が何を求めているのか皆が好奇心をもつべきなのです」

文=荒井香織

この記事は 「Forbes JAPAN No.9 2015年4月号(2015/02/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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