「物語」にしばられ、しがみつく。為末大の「物語」と共存する生き方

為末大さん


──「物語」にとらわれている人に、どうアプローチするんですか?

為末:「白状」ですね。「僕はこんな感じで『物語』にとらわれてるよ」と先にさらけ出す。そうすると「そこまでは出していいんだな」という空気になります。その中で自分で自分を分析して、自分を物語ることで、少しずつ別の「物語」と自分を一致させていく。その繰り返しだと思います。

もう一つできることがあるとすれば、「あなたの今がこれまでの『物語』からズレていても、私はがっかりしないよ」と伝えることだと思います。本人が一番おびえるのは、今の「物語」から降りてしまった自分を、周りが失望して見放すことです。だから、今の「物語」にしがみついてしまう。

「物語」に苦しんでいる人に正論をぶつけても、何も解決しません。自分を縛りつけている「物語」から距離を取れるようになるには、本人が納得しないと始まらない。他者ができるのは、聞いて、聞いて、聞くことです。

こう話す僕自身も、実は「物語」にとらわれています。客観的な場所から「自分は『物語』から逃れている」と眺めているつもりでも、そんな自分もまた別の「物語」にとらわれている。

阿波踊りで「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損々」とうたいますよね。人間として、「物語」から逃れられないのなら、もっと自在に書き換えて生きていきたいと思っています。

縛られている自分自身を笑ったり、楽しんだりするしかないですよ。どうせ縛られてしまうのならば。


為末 大(ためすえ・だい)◎1978年広島県生まれ。男子400メートルハードルの日本記録保持者(20年3月現在)。2001年、世界陸上エドモントン大会で3位となり、陸上スプリント世界大会で日本人初のメダルを獲得する。その3年後、大阪ガスを退社。賞金とスポンサー収入で生計を立てる「プロ選手」の道を選ぶ。05年の世界陸上ヘルシンキ大会でも再び銅メダル。3度の五輪(シドニー、アテネ、北京)に出場、12年に引退。現在はスポーツとテクノロジーに関するプロジェクトを手がける株式会社Deportare Partners代表、アスリートの社会貢献をめざす一般社団法人アスリートソサエティの代表理事。


本記事はAIの社会実装を手がけるABEJAによるオウンドメディア「Torus(トーラス)by ABEJA」からの転載です。

文=笹島康仁 写真=西田香織 編集=錦光山雅子

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