新型コロナ対策で独自路線を貫くスウェーデン その理由と現在地

ストックホルム市街地の様子(2020年4月10日撮影、Getty Images)


では、スウェーデンのこの“緩い”対応で難局を乗り切れるのか。それには誰も確証を得ることはできないが、周辺国との比較によって、多少の未来は推測することが可能だ。

死者が10人となった日を初日とカウントし、横軸が経過日数で、縦軸に死者数の合計を現したグラフで、スウェーデンは、ここ数日でグラフの傾きが寝てきている。つまり、この数日は死者の数を抑えられているという意味だが、楽観視はできない。ドイツは一旦寝た後に、再度、上向いているからだ。

また、10日から13日にかけてスウェーデンではイースターの4連休があり、各病院からの報告が完了していない等で統計が正しく反映されていない可能性もある。

ロックダウンしないのは国民性に理由


今後、スウェーデンでも増加傾向が抑えられなくなった場合は、いよいよ休校やロックダウンの必要性も出てくるだろう。だが、現段階では、いまだ政府がロックダウンについて言及はしていない。スウェーデン政府は感染拡大抑止と経済のバーター関係はもちろんのこと、国民の自由を最大限保とうとしており、この3つをギリギリのところでバランスさせている。

先日、外務大臣のAnna Linde氏がCNNのインタビューでも答えていたが、スウェーデンは長い歴史のなかで政府と国民との間に信頼関係を築いてきた。そのため、政府はトップダウンではなく、「要請」という形で国民に呼びかけ、国民は自主的に行動するという形がこの国では最善策であるようだ。


ストックホルム、屋外でワークアウトする人々(4月11日撮影、Getty Images)

私はスウェーデンの会社で働いて4年が経過したが、唯一苦労している点がこの“トップダウンなし”というやり方だ。これまで日本とドイツの企業で働いてきたが、どちらもトップの方針や制約がはっきりとしており、末端の従業員は上の指示を仰ぐ傾向にあった。

それがスウェーデンではだいぶ異なる。上からは指示が降りてくるのではなく、まずはヒアリングが行われることが多い。どんなに緊急性がある仕事でも、「さて、どうする?」的な会議が頻発する。

私としては、経験豊富なベテランや上層部が方向性を定め、組織をリードすればよいと思うのだが、これをやると従業員からは意思決定に至るプロセスに透明性が見えないと反発が起き、結果的にチームワークが崩壊する。日本でよく経験した、「上が言っていることだから仕方がない」というのはスウェーデンでは良くも悪くもほぼ経験したことがない。

こうした民主主義精神を徹底的に貫くスウェーデンの国民性は、組織内の上下関係で信頼関係が産まれ、1人1人に不満を溜め込むことを避けることはできるのだが、その反面、時間もかかる。ロックダウンを発令しない背景には、この国民性が影響していると私は感じている。
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文=吉澤智哉

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