ビジネス

2020.04.17

その言葉は誰に発しているのか。当事者意識が引く炎上と評価の境界線

新製品発表でも謝罪でも大切なのは相手への意識: Photo by Shutterstock


「たとえば新製品・新サービスや経営計画の発表のとき、壇上に立つ方々は、あれも言いたいこれも言いたいとなることが多い。とくに事業規模が大きくなると、関係部署への忖度も発生し、それらを網羅することを“やってしまう”のです。これが10分でも続こうものなら、聞いている人々はもはや何が言いたいのかがわからなくなってしまいます」

これはコミュケーション以前の問題だと指摘する。

「供給者側の視点が勝り、相手が何を聞きたいか、どういう言葉だと理解してくれるかという視点が足りなくなるのです。孫社長の例のように、シンプルで分かりやすいキーメッセージを作り、できるだけ発する言葉にメッセージを入れこむ。それを強調しながら、そこにファクトとして数字などを補強し説得力を強化するのです」

メッセージをどう作るかということで言えば、“メッセージ・ハウス”という手法がある。これは主にメディアに向けた発信の際に有効だという。

メッセージハウスという思考を説明する図

【メッセージハウス】


1:屋根の部分はコアテーマとなる。このテーマをイメージしながら組み立てていく。
2:テーマを作り上げる3つのキーメッセージをつくる。シンプルにかつ多面的に。これは柱となる重要なセクション。
3:メッセージをサポートするためのファクトとして数字などを整理する。

⇒ 具体的な例として


1:「信頼される企業へ。今後一桁後半の成長を目指す」
2:「無農薬野菜への注力」「オーガニック食品への注力」「人工水田への投資」
3:アンケート数字/販売数量の伸び/世界の状況/健康寿命・・・

上記のように組み立てて整理し、発信者は繰り返し意識へ植え付ける。壇上では「キーメッセージ」を主体に説明。独自の造語を作って話すのもよい。特にメディアはファクトに興味を持つため、数字などの裏付け[3]が、[2]を補強することになる。会社の規模によらず、この手法は有効だという。

ふたつの観点が、発信者の結果を左右する


竹村は、あらためて発信者に必要な2つの意識を説く。

「多くの記者会見や発表会などで発信者を観察するとき、まず、メディアの向こう側にいる視聴者や話を聞きに来ている聴衆がしっかり見え、誰に対して話をしているかを見ます。そして発言の内容がその聴衆の視点で見えているか、このふたつを見ています。発信者のひとりよがりになっていないか?言い訳になっていないか?それが、何かを伝える側が持つ大切な意識です」

謝罪会見などがいい例かもしれない。言い訳に終始し、無意識のうちに自分なりの整合性を語ってしまう。また新製品では、そのスペックよりも、その製品で生活が変わるのか、使う人の立場になれているかという点でもあるだろう。

そして、日本企業の中でも、クルマ業界の発信がよくなってきていると話す。

会見をトレーニングする部屋での竹村
竹村のオフィスでは会見のシミュレーションが可能なスタジオを持ち、繰り返しトレーニングを行うことができる

「モータショーでは、世界のトップがすばらしいプレゼンテーションを行なっており、それが一同に介しているため、多くのメーカーが各社の特徴や採点などをしています。その良い点を我が社に反映させることで、総じて全体のクオリティが上がってきています」

竹村は企業への指導のなかで、壇上の広さを有効に使ったり、両手を大きく広げるなどのアクションも教えるという。

「企業からの依頼としてはやはりメディアトレーニングが多い。各社、いかに発信が大事かを分かってきているからこその現れです。大昔は、トレーニングすらその重要性を理解してもらえなかった。状況が変わっている今だからこそ、日本企業はその規模にかかわらず、世界に通用する発信スキルを身につけてもらいたいと思っています」

文=坂元耕二 写真=西川節子

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