radiko躍進の舞台裏──リスナーの声の可視化から見出した、3つの役割

radiko業務推進室長 坂谷 温氏


番組をも変えるデータ、変えるべきでない文化


「届ける」「貯める」「整理する」の3つに注力するradiko。逆に言えば、届ける対象であるコンテンツには手を出さないという姿勢でもある。「すでにラジオには素晴らしい番組がたくさんあります。変えるべきは届け方であり、それがradikoが担う役割になる」と坂谷氏。

坂谷氏「最近では、若年層の間で『パケットや通信料を使わないラジコがあるらしいよ。ラジオっていうんだけど』という話があったそうです。これは、“若年層はラジオを知らない”という事実とともに、何で聴くかは問題ではないということだと思います。それがラジオかラジコか、YouTubeかなんて何でもいい。あくまでコンテンツがすべてなんです。

我々も、当初はラジオの補完機能としてスタートしましたが、オーディオコンテンツを届ける一媒体として、いかにその市場を広げられるかを問われていると感じています」

そのひとつの突破口にradikoはデータという強みを持っている。「radikoはデータによってユーザーを可視化できる。これは、他媒体にはないメディアカレンシーのようなものだ」と坂谷氏は考える。このデータは、コンテンツを作る局側とも連携しつつ、オーディオコンテンツの未来を模索する手助けをしている。

坂谷氏「これまで番組は、作り手の勘や経験に基づき制作されてきました。しかし、数字で見るとそれがリスナーにとっていいのか否かも一目瞭然になる。例えばTBSラジオでは、ラジコ上でのリスナーの変化をスタジオに表示しているそうです。制作スタッフはもちろん、出演者もそれを見ながら放送する。データの蓄積と分析によって番組の改善も可能になるんです」

綿密なログがあれば、ヒートマップのような「盛り上がりの可視化」も可能になる。先述した「いいね!」機能などがあれば顧客の反応がさらに可視化され、番組作りにも有用だろう。彼自身、いちラジオファンであり、その思いもあるという。

ここで坂谷氏は「ただ」と言葉を続ける。

坂谷氏「それだけでは、予定調和で単調な番組しか生まれなくなってしまいます。『これ好きだよね?』というものばかりを届けるのではなく、意外性を持たせることも重要でしょう。発見性や新たな出会いを生むようなコンテンツも時には盛り込んだり、ラジオならではのコンテンツを作れるかが大事になるでしょう。

ラジオにはラジオにしかない文化があります。他のメディアでは見せないタレントさんのパーソナルな話題や、ニュースに対する独自の考え。パーソナリティーとリスナーとの『近さ』。それこそがラジオの魅力ですし、これからも変えるべきではないと思うんです」

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オーディオコンテンツロジスティクスの視点で、ラジオとの出会いをリデザインしてきたradiko。まだまだラジオを変革する余地を残しつつ、その影響は番組自体にも及ぼうとしている。

スマートスピーカーでの楽しみ方も、データに基づいて生まれた新しい番組も、今後さらに幅を広げ、新たな体験を生み出していくだろう。10年後、15年後には、想像もつかない「新しいラジオ」を多くの人が楽しんでいるかもしれない。

文・取材=葛原信太郎|編集=小山和之|撮影=須古恵

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