radiko躍進の舞台裏──リスナーの声の可視化から見出した、3つの役割

radiko業務推進室長 坂谷 温氏


ユーザーの声が「地域」「時間」の壁を越えた


2014年にはじまったエリアフリーも、アンケートで集まった「エリアを越えて全国の番組を聴きたい」という声によるもの。ニーズから考え出したサービスだったものの、定量的なデータを分析すると、radiko側の想像を超える多様な使われ方が生まれていた。

坂谷氏「私たちは当初、東京や大阪でしか放送していない番組を聴きたい、地方のリスナーのニーズを想定していました。大きな局のほうが有名なパーソナリティを起用しやすく、番組を聴きたい人がいると考えたからです。しかし、意外と多いのは、都心のリスナーが地方のラジオを聴くパターンでした。進学や転勤で都会に出てきた人など、地元から離れて暮らす人が聴いているんです」

地域に根づくラジオ局には、その地域のリスナーに愛されている名物番組、名物パーソナリティがいる。そういった番組を自ら探求するコアユーザーもいるそうだ。

例えば、爆笑問題の太田光氏はかなりのラジオ好きで、自身がパーソナリティを務める番組で、お気に入りの地方番組を紹介している。ラジオ番組を通し、新しい地方番組に出会う。エリアフリーは、そんなリスナーとラジオの新しい接点も生んでいる。

また、地域ごとに存在する考え方の違いも、エリアフリーがあれば可視化できる。たとえば、沖縄の基地問題を取り上げるとき、沖縄と東京では意見に違いがあるはずだ。そうした捉え方の“多様性”を知る機会にもエリアフリーは寄与するはずだ。

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オフィスの壁には、イラストレーターが描いたラジコがある風景が飾られていた

ユーザーの声を聞きつつ、データでその行動を理解し続ける──。

これを繰り返す中で見いだされたのが、「貯める」「整理する」役割だ。例えば、2016年からスタートした「貯める」機能「タイムフリー」は、今の時代の情報流通と非常に相性がいいという。

坂谷氏「最近は、SNSでラジオ番組が話題になり、聴取につながるパターンが増えています。例えば、放送直後からウェブメディアでその内容が取り上げられ、SNSで拡散される。すると、メディアの情報で番組を知り、タイムフリーで聴取するといった流れが起きているんです」

タイムフリーは無料・かつ登録不要で利用できる。はじめてラジオに触れる人にとっては、よい入り口になっているという。2019年には、生放送の2倍以上のユーザーにタイムフリーを通して聴かれた放送もあった。

坂谷氏「芸人の山里亮太さんと女優の蒼井優さんの結婚に関して、山里さんがパーソナリティを務める深夜ラジオで、記者会見の当日、その詳細を語りました。リアルタイムで聞いていたのは9万人ほど。ですが、翌日以降ラジオでのトーク内容をさまざまなメディアが伝え、倍以上の25万人がradikoのタイムフリーで聞いてくれたんです」

ただ、SNSとの連携ではラジオならではの特性も見えてきた。その示唆を与えてくれたのが、視聴している番組をSNSやメール等で共有する「シェアラジオ」の機能だ。

坂谷氏「期待していたほど、シェアラジオが使われている印象は残念ながらないです。ラジオはパーソナリティとの距離感が近く、一対一でコミュニケーションしているような錯覚をする番組もあったりする。その距離感がシェアとは相性が良くないのかもしれません。当初は、友人に『これ聴いてみて』と共有するには便利だろうと考えたのですが、全体的にはそこまで伸びなかったんです。もしかすると、よりライトに『いいね!』のような、熱量を可視化する機能の方が広まりやすく、かつユーザーにも価値あるものかもしれません」
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文・取材=葛原信太郎|編集=小山和之|撮影=須古恵

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