商談は「提案前」がキモ。競合他社がいるからこそ効く「核心質問」の威力

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前回のコラムでは、顧客の本来のニーズを引き出し、それに寄り添う「戦略型営業」を紹介しました。今回は、その戦略型営業にとって必須の「質問力」に焦点を当てていきます。

私の会社(TORiX)の調査によれば、お客さまが「もう一度会いたい」と感じる営業に出会う確率は、6人に1人でした。逆に言えば、残りの5人は「また会いたい」と思われるレベルに達していないのです。

「営業に対して落胆した」というお客さまの不満のなかで最も多かったのは、「きちんとヒアリングをしてくれない」というものでした。では、顧客にガッカリされてしまう営業は、いったい何が聞けていないのでしょうか?

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出所:TORiX調査(n=309)(c)TORiX Corporation All rights reserved.

ヒアリングに対する最も大きな不満は、「会社が求めていることや目指している方向性を聞いてくれなかった」というものでした。次に「会社が困っている課題や悩んでいることを聞いてくれない」という理由が続きます。

一方、「発注担当者が個人的に考えていることや困っていること」については耳を傾けられていて、顧客の不満も少ないという結果が出ています。要するに、個人レベルの悩みはヒアリングできていても、会社全体レベルでの課題までは聞けていないということになります。

しかし、多くの営業担当者は、会社レベルの悩みや課題までヒアリングを深めないまま提案を出していることに、気づいていません。他社とのコンペ提案で勝率を上げたい人にとっては、ここが大きなチャンスになるのです。

初対面からの1時間で商談は決まる


私は以前、上場したばかりの会社の社長に、ある提案をする機会がありました。無事に受注できたのですが、見積もりをお渡しした際に「決断するのに勇気が要った」とおっしゃっていたのを思い出したので、発注を決意したのはいつだったのか尋ねました。

すると、社長は「最初にお会いしたとき、こちらの話を高橋さんが熱心に聴きながらメモをとっている姿を見たときでした」と答えてくれました。

さらに聞いてみると、私の前にすでに3社から提案があったようです。3社の担当者はみな共通して、「上場おめでとうございます。ただ、油断は禁物です。御社の課題は……」と社長の話などろくに聞かず、一方的に会社の弱みや課題を並べ立てたということです。「課題がたくさんあるのだから、自分たちの会社を使うべき」という上から目線の営業は、逆効果だったようです。

そんな3社の提案に社長が憤慨していたところ、4社目として私が営業にやってきたのだそうです。私はまず、社長の話を聴きながらメモをとりはじめました。それを見て、社長は「この会社は理解してくれそうな気がする」と思ったそうです。初対面からわずか1時間で、実質的に商談の結果は決まっていました。

もちろん、見積り金額を見ないで最終決定するお客さまはいません。しかし、見積り金額「だけ」で決めるお客さまもいないのです。

重要なのは、「各社を比較検討するお客さまは、提案内容を見る前のタイミングで、“ぐらっ”と心が動くことがある」ということです。コンペの勝率が高いハイパフォーマーは、そのことを十分理解しています。
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文=高橋浩一

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