ビジネス

2020.04.16

熟成純米大吟醸「無二」にふさわしい価格を探求

黒龍酒造

18年6月、東京のモダンスパニッシュレストラン「エネコ東京」は異様な熱気に包まれていた。

全国から集まった66名のバイヤーの前に置かれた4つの箱に次々と投函されていく白片……実はこれ、「黒龍酒造」の熟成純米大吟醸酒「無二」の価格を決める入札会である。


入札は2012、2013、2014、2015の4種ヴィンテージ「無二」を求めて、全国66軒の酒販店からバイヤーが集結した

「石田屋」「二左衛門」など高品質・高価格帯の日本酒を生産する「黒龍酒造」は、当時市場に出回ることのなかった大吟醸酒にいち早く注目したことで知られているが、実は日本酒を熟成させることにも早期から取り組んでいた。

「私の父である7代目蔵元は60年代にフランスのワイナリーを巡り、ワインメイキングを学びました。その帰途、飛行機の中で、ワインを熟成して価値が上がるなら、同じ醸造酒である日本酒にも熟成のポテンシャルがあるのではと思いついたそうです」 帰国後、日本酒の熟成に適した温度と湿度を研究し、75年には純米大吟醸酒「黒龍 大吟醸 龍」をリリース。日本で初めてテクニカルに「長期熟成」を味わいに生かした日本酒を誕生させている。

「父から事業を継承した私もワインをベンチマークにしているところは多々あります。例えば米の収穫年を表記したヴィンテージ日本酒、投資的な価値を見据えた値付けなど。従来、日本酒の価格は材料原価に生産加工費を加え、メーカー主導で決定していましたが、それではなかなか付加価値が上がりません。長期熟成された高級酒「無二」にふさわしい価格とはなにか、業界に問いかける意味で入札会を開催したというわけです」



漆塗りの化粧箱に、入札会で落札された証明書を添えて販売されている「無二」

そこで冒頭のシーンへと戻ろう。3回の入札を経ても価格が決まらず、結果、四合瓶の市場価格で7万〜18万円台となる卸価格で落札された「無二」は日本酒のプライシング、そして価値の在り方に一石を投じ、その波紋はいまも広がり続けている。まさに唯一無二の日本酒である。


黒龍酒造代表取締役社長 水野直人

photographs by Naoki Tatori|text and edit by Miyako Akiyama

この記事は 「Forbes JAPAN 4月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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