最後に、LINEユーザーのデータを母集団とした、自宅待機者やハイリスク群の実態把握です。実態を把握することで、陽性患者以外の人を含めて、社会として有効な施策を打てるようになります。今後の予測や対策後に実際にクラスターが解消されたかどうかも分析することができます。この部分を短期的に拡張したのが8300万人を対象にした全国調査という立て付けです。
重要なのは、データを一方的に集めるのではなくて、1人1人にサポートを提供し、価値を感じてもらうことです。
日本でコンタクトトレーシングをやるには、個人の同意か社会的合意が必要です。大多数の人が参加し、しかも症状のない状態から使っていないと機能しません。みんなが使ってメリットがある「Protect Together(お互いに守る)」という形で、利用の環境をデザインできるかどうかがキーになるのです。
民主国家の中には「住民の何割以上が追跡アプリをインストールしたか」をロックダウンの解除要件にすることを検討している国もあります。また、今後アップルとグーグルが共同でBluetoothによる接触追跡機能を実装した時に、ユーザーに事前に許可を求める「オプトイン」方式ではなく、ユーザーの申告で機能を停止する「オプトアウト」方式で運用する国もあるでしょう。
どのような形でそれぞれの国が国民の理解を得るにせよ、「人々にとっての価値」を明確に示すことは必要です。
例えば、病院で「ここで治療を受けるなら、お互いコンタクトトレーシングを入れましょう」なら結構納得できますよね。介護施設でも「濃厚接触が避けられないので、万が一感染者が出た時に迅速に対応できるように、コンタクトトレーシングを入れましょう」とか。そういうシチュエーションを考えていく必要がある。
感染者数が抑制できたとしても、油断すればすぐにまた増える可能性があります。さまざまなアプローチを組み合わせて、いのちを守りながら社会活動の範囲を少しずつ広げる仕方を考えていかなくてはなりません。
※第1回は『検査が少ない日本の貴重なデータ、LINE調査で分かったこと』
みやた・ひろあき◎2003年3月東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻修士課程、同分野保健学博士(論文)修了。早稲田大学人間科学学術院助手、東京大学大学院医学系研究科医療品質評価学講座助教を経て、2009年4月より東京大学大学院医学系研究科医療品質評価学講座准教授。2014年4月より同教授(2015年5月より非常勤)、2015年5月より慶応義塾大学医学部医療政策・管理学教室教授。