民主主義国家でICTを使ったコロナ追跡は可能か? 宮田教授が解説

慶應義塾大学医学部の宮田裕章教授


政府がマスクを全世帯に2枚ずつ配布したのは、行政と国民一人ひとりをつなぐチャネルがなかったからです。そういう意味で、8300万人という国民に一番太いチャネルを持っているのがLINEでした。LINEユーザーを対象にして、できる限りのことをやろう、と始まったのが今回のプロジェクトです。

日本は現時点でロックダウンができる制度がなく、また当然、中国のようにトップダウンで強権を発動することもできません。そうした現状のなかで何ができるのか。今回は外国が持っていないようなデータ集めてみようとプロジェクトの検討が始まりました。強制力は小さいけれど、今の民主主義国家の仕組みの限界を踏まえて、現実を改善する努力をしてみるということです。データに基づいて社会的な距離を取り、できる限り効果的な形で感染を抑えられないか、というのが調査の狙いです。

感染症との闘いでは、クラスター対策で見える部分だけではなく、情報も多角的にあらゆるものを使っていかないといけません。今後、グーグル、ヤフー、ドコモなど様々なプラットフォーマーと連携して、間接症状の発熱だけではなく位置情報など色々な情報を多角的に組み合わせて、状況を把握していく必要があります。

──LINEを使った調査とコンタクトトレーシング(接触追跡)の連動は、検討していないのでしょうか。

LINEを使った調査は個人情報を抜かないので、コンタクトトレーシングとは分けて考えています。

なお、LINEによる情報提供システムは、今回お話しした厚生労働省が行なっている全国調査と、22の都道府県で行なっているパーソナルサポートがあります。

パーソナルサポートには目的が3つあります。一つは、ユーザーが登録した段階で受けられる個別化した情報提供。チャットボットを通して現在の体調などの基礎情報、位置情報ログなどのデータを入力すると、個々人に最適化された情報やサポートが受け取れます。自身がハイリスク対象者か否か、軽症者か重症者か、医療機関受診のタイミングなども教えてくれます。

次に、症状があった人へのフォローアップ。定期的にメッセージを送り症状を確認します。病院がパンクしてしまうので軽症者は自宅でのセルフケアが必要になりますが、体調の変化や周辺の発症状況といった変化を検知し、受診が必要なタイミングを伝えることができます。今後データが集積することで、リアルタイムで重症化の予測をしながら、医療資源の振り分けに使うことも可能かもしれません。
次ページ > 「Protect Together」

構成=成相通子

ForbesBrandVoice

人気記事