民主主義国家でICTを使ったコロナ追跡は可能か? 宮田教授が解説

慶應義塾大学医学部の宮田裕章教授


こうした背景の中で中国では、プライバシーを制限しながらICTを活用して徹底的に封じ込めをしています。例えば、携帯電話から得られるライフログを集め、感染者と接触した人には「3日前に同じ電車に乗っていました」とアラートを出し、自宅待機させて検査、隔離するというアプローチを行っています。

シンガポールやドイツは、携帯電話のBluetooth機能で近くにいた人を感知し、記録するアプリを使って、感染者の接触者を追跡するコンタクトトレーシング(接触追跡)を導入しています。アップルとグーグルは共同で、この追跡技術の開発をすると発表しました。これもアプローチの一つですが、30分近くにいたといってもマスクの有無や壁の有無など環境によって感染のリスクは大きく異なるので、これで見えることにも限界があります。最近シンガポールでは感染経路を追えない人が増えて、セミロックダウン状態に入っています。

従ってこのアプローチも万能ではないことに注意が必要です。現時点では複数のアプローチから対策を行うことが重要なのです。

──宮田教授は厚労省の「保険医療分野におけるICT活用推進懇親会」で、個人や患者を中心にヘルスケアデータを利活用するプラットフォーム「PeOPLe」構想に携わっています。日本ではヘルスケアデータが行政や各病院に分散して保管されており利活用が難しいです。新型コロナ危機で、日本の医療ICTも変わるのでしょうか。

徐々に変わっていくと思いますが、まだ難しい状態です。

例えば、台湾はマイナンバーカードのような個人IDが普及しており、健康保険証と薬局を使って平等にマスクを配ることができます。台湾はかなり前から医療のICT化を進めていたので、いまがあるのです。日本ではマイナンバーカードすら普及しておらず、健康保険証として使えるのは来年からなので、現時点では広くサービスを提供するための対策では使えません。マイナンバーカードが行き渡っていれば、そのインフラを活用した様々な対策を検討できたでしょう。
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構成=成相通子

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