「鳴った」と言わされてしまった
だが、呼吸器に不具合がないことを確認した警察は、アラームが鳴った、という想定にこだわった。看護師が居眠りしていてアラームに気づかず、対処が遅れ、酸素欠乏に至った、という見立てを変えず、業務上過失致死事件の筋書きで、看護師の立件を視野に突き進んだのだ。
そんな状況で西山さんが「鳴った」と言わされてしまった。
秦「アラームは、実際には鳴ったのか、鳴らなかったのか、どっちなの?」
角「判決では、鳴っていない、という結論になっています。鳴っていないんですよ」
秦「じゃあ、なんで西山さんは『鳴った』と言ったの?」
角「最初のうちは、西山さんも『鳴っていない』と言っていたんですよ。事件から10カ月が過ぎて、警察は捜査態勢を増強して、当初は所轄の愛知川(えちがわ)署がやっていた事件に、県警本部の捜査員を投入したんです。その刑事に『鳴ったはずや』と脅されて、『鳴りました』と言わされたんです」
秦「それで、供述を取り消そうとして、自分から警察署に行ったということか…」
角「ただ、西山さんは最初は脅されて、言わされたんですが、途中からは同僚たちにも『鳴った』と言って、警察の筋書きに話を合わせるようになっていくんです。刑事が優しくなって、取り込まれてしまったんじゃないですかね」
秦「撤回しようとしたのは、なぜ?」
角「西山さんが『鳴った』と言ったことで、看護師への取り調べが厳しくなるんですよ。精神的にぎりぎりまで追い詰められて、いったんは看護師も『鳴った』と言わされるんです。署名の段階で拒否してるんですけど。やっぱり警察の取り調べって、いったん自白を取る、という方針になったら容赦ないんでしょうね」
取り調べは密室空間で行われる (Shutterstock)
初期の段階で、2人がうその自白に追い込まれているのだから、かなり強引な供述の取り方をしたということだろう。
秦「西山さんは、刑事と同僚看護師との板挟みになった、というわけか」
角「看護師が精神的に苦しんでいることを同僚たちから伝えられて、西山さんは証言を取り消そうとしたんです。看護師とも仲が良かったみたいで、必死だったんだと思います」