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#供述弱者を知る


さらに分かった再現ビデオの存在。これが有罪の決め手か


角記者の話には、さらに続きがあった。

角「再現ビデオも撮られているんです。これが、かなり有罪の決め手になったかも知れないですね」

秦「現場検証で犯行の場面を再現したビデオということ?」

角「病院の現場で、犯行の流れを本人が説明しているところを撮られているんです」

秦「見たの?」

角「見てはないです。でも、先ほど話した県警の人は、僕が『突っ込みどころ満載じゃないですか』とからかった時に、少し強気な態度でそのビデオの話を持ち出したんですよ。その人は『いろいろ言ってきても、あのビデオを見れば誰でもあいつが犯人で間違いないと思うで。それぐらい、完璧なビデオなんや』って言うんですよ。『あのビデオには、疑う余地がない』って」

秦「本人が積極的に犯行を再現している、ということなのかな」

角「たぶんそうだと思います。供述調書の通りに、その場面を演じさせられているんじゃないですかね」

刑事のことを信用し、すべてを委ね、好きなように供述調書を書かれ、自らの手でも上申書をその都度書かされ、揚げ句の果てに、捜査側が脚本した再現シーンを言われるがまま演じてしまったのだとすれば、なんともひどい話だ。

角「書けますかねえ?」

秦「うーん。でも、そのビデオがあると、再審は、厳しいことは厳しいね。冤罪防止で録音録画が言われるようになったけど、それを先行するような話だもんな。しかし、言いくるめられた挙げ句に、そんなビデオまで撮られてしまうなんて、恐ろしい話だよね」

角「よほどの材料がないと、再審に持ち込むのは難しいとは思います」

私は、角記者から「書けるか」と問われたことに対し、可能性の糸口を探した。書く材料には事欠かないのはその通りだが、今の段階で問題提起をしたとしても、現在進行中の第2次再審請求審の大阪高裁で、再審決定が出る、という可能性は高くはない。それでも構わないのだが、新聞として必要なのは、それでも記事にする妥当性だ。

この事件を再審するべきだ、と主張できるだけの根拠と、さらに言えば、今になって新聞が問うことの意味が必要になってくる。書けるか、という角記者の質問には答えられないまま、逆に私は聞いた。

「その西山さんって女性、発達障害がある可能性はないだろうか」

角記者が答えた。

「何らかの障害があるかもしれません。僕も発達障害について、詳しいわけではないんですが、父親が出した上申書に、娘さんの幼少期のことや、大人になっても『後でばれるようなうそや作り話を友人たちに言うようなところがある』と書いてあるんですよ」

再び私は、角記者の話に身を乗り出した。そして、彼が語り始めた、これまた驚くような話を聞くにつれ、私の中で、まだ会ったこともない西山美香さんという女性のイメージが少しずつ、立体的な像を結び始めたのだった。

連載:#供述弱者を知る
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文=秦融

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