ライフスタイル

2020.04.10 18:00

人間いつ死ぬかわからないから|乳がんという「転機」#16


たとえば劇中に出てくる森林は、緑色の色合いが少しずつ違うLEGOを何種類か組み合わせていて、実に北欧的な色づかい。フィンランドを第二の故郷と呼んで、家族で何度も旅していたユキちゃんの色彩センスが受け継がれていると感じた。

生前、会社で一緒にランチをしたときに、Tくんの LEGOで作ったショートムービーを見せてくれて、「ほらこれ、ついに人形が空を舞うようになったのよ!」とうれしそうに話していたのを思い出した。あれはたしか、透明な糸で宙吊りにしたのだったよね。

LEGO部の展示教室の前で、短い時間だったがTくんと話すことができた。葬儀で会って以来、ほぼ1年ぶり。ますますしっかりとした青年になっていた。まっすぐに人の目を見て話すところはお母さんそっくりだ。目のかたちもそっくりだ。ユキちゃん、Tくんの作品、すばらしかったよ。これからも作り続けるに違いないから、私も追っかけして全部観に行くからね。

その後しばらく経ってから、Tくんからフェイスブックの友達申請が来た。プロフィールを見ると、Tくんの好きな映画には、スター・ウォーズ、バック・トゥ・ザ・フューチャーとたくさんの映画が並んでいて、どれも息子の好みと似ていた。英語が好きそうなところも気が合いそうだ。

息子はTくんに会ったことはないけれど、中学受験の時に手紙をやり取りした間柄でもあることだし、友達申請してみたら?と息子に提案したところ、さっそく友達になったようだ。息子はそれまでフェイスブックはやっていなかったが、Tくんと友達になるためだけに開設し、今は、友達はTくんただ一人という状態だ。

ユキちゃんもきっと見ているよね、Tくんと息子がつながったよ。なんだかうれしいね。


がんの確率、ほぼ100%──|乳がんという「転機」 #1

私はまるで、使い捨てカイロだ。|乳がんという「転機」 #2

ベリーショートの智子がたんぽぽの種に例えた「転移」|乳がんという「転機」 #3

人生最悪の10日間、見えてきたもの|乳がんという「転機」#4

「全部いりません!」初診の日、全摘を確認|乳がんという「転機」 #5

乳がん告知。がっつり生きよう。もっともっともっと|乳がんという「転機」#6

左胸に、さよならを。幸せな人生とは何か|乳がんという「転機」#7

手術。体感時間1分。甘かった…|乳がんという「転機」#8

乳がん初動のイロハ、書かなきゃ|乳がんという「転機」 #9

退院。そして事件は起きた|乳がんという「転機」 #10

赤黒い傷のインパクト。傷口のケア、心をかけて、手をかけて|乳がんという「転機」#11

這ってでも会いにいけばよかった|乳がんという「転機」#12

さらば乳がん、とする。|乳がんという「転機」#13

これからの生き方、11のマイルールと、12の「〇〇しない」リスト|乳がんという「転機」#14

醜悪なマウンティング合戦は、大切な時間の無駄遣いだ。| 乳がんという「転機」#15


連載「乳がんという『転機』」。筆者は電通 チーフ・ソリューション・ディレクターでForbes JAPANオフィシャルコラムニストの北風祐子さん。

初動から立ち直るまでのブログ的記録。11人に1人が乳がんになる時代、大親友がたまたま医師だったおかげで筆者が知ることができたポイントを、乳がんの不安のある女性たちやその家族に広く共有し、お役に立てていただけたらと考えています。

連載はこちら>>

文=北風祐子、写真=小田駿一、サムネイルデザイン=高田尚弥

タグ:

連載

乳がんという「転機」

ForbesBrandVoice

人気記事