人間いつ死ぬかわからないから|乳がんという「転機」#16

北風祐子さん(写真=小田駿一)


人体とは、かくもパワフルなのだ


2017年11月11日。術後半年になった。気づけば左腕がラクラク上がるようになっていた!当初はとてもじゃないけど完全に上がるようになるとは思えなかったので、半分あきらめて、半分は希望を捨てずに体を動かしていた。

乳がん

人体とは、かくもパワフルなのだ。病気がわかってからずっと、なにか大きな存在、強い力に守られているような気がしているが、今回も、腕が上がるようにしてくれて、ありがとうございます。なんかほんとにありがたいです。

「人間はみんな天才なんだ」


2017年12月15日、息子から金言が飛び出した。「ネガティブ思考はだめだよ。まわりまで暗くしちゃうから」。息子に言われてみて、その前に話していたことの根っこはたしかにネガティブだったなと反省。

赤ちゃんのときから感じているが、子どもに教えることと同じくらい、教えてもらうことは多い。親子は上下関係ではない。

「人間はみんな天才なんだ。天から与えられた才能がある。気づくか気づかないか、磨くか磨かないかの違いだ」

これも息子本人は何気なく発した言葉だが、私の奥深くにある歪みを突いてくる。持っているものを使い切っていない気持ち悪さからくる歪み。使い切らないと、持っているのかいないのかもわからない。この歪みを抱えたままだと心身ともに悪影響なので、外に出していくしかない。創造的毒素排出。いざ!

「元気をもらった」にむかつく


2018年2月3日。がんじゃない人に、がんとか、「がんサバイバー」について語られると、イラっとする。人間は致死率100%。たまたまあなたより早くその恐怖に直面しているだけ。その恐怖の耐え難い深さを肌身で感じているわけでもないのに、よく知らないことをペラペラ語るな!と叫びたくなる。

ましてや「元気をもらった」とか言われると、本当にむかつく。思ってもいいけど、直接本人に言うのはやめてほしい。私は、生きるのに必死なだけで、あなたに元気を与えるために生きているのではありません。身近な罹患者を支援する活動をしている人のボランティア精神を否定するつもりはないが、ただ目の前の罹患者と向き合って、黒子に徹していただきたい。

かくいう私は、経験者として、同じ悩みに直面した人のために何かしたいと考えている。が、深刻な病状の人たちの闘病記は、怖くていまだに読めないし、支援活動は支援者の「語り」が不快で素直に賛同できないことが多い。まだ、何を見ても何を聞いても平気、というほどまでには回復していない。いや、もうずっとこんな感じなのかもしれない。

心からありがたいと思うのは、ただいつも通りに一緒にいてくれることだ。「体調は大丈夫?」と気遣ってくれること。いつも通りに助け合って仕事をして、その喜びを分かち合えること。「4本足の動物は食べないようにしている」などと面倒なことを言っても宴席に誘ってもらえること。
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文=北風祐子、写真=小田駿一、サムネイルデザイン=高田尚弥

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乳がんという「転機」

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