2018年は、自動運転分野において日本の自動車メーカーによる二つの大きな意思決定が行われた。一つはホンダによるGMクルーズへの資本参加。もう一つはトヨタとソフトバンクの合弁会社設立である。
日系自動車メーカーは従来よりプライベートユースでの自動運転技術を主眼に据え、割高なデバイスコストを背景にその普及には時間がかかるとの見方を採ってきた。しかし、昨今のコマーシャルユースのニーズ増加を受け、MaaS(Mobility as a Service)分野での自動運転の早期普及に商機を見出そうと動き出している。
しかし、足元の自動運転機運は失速気味だ。19年に入り、自動運転に対する期待値はやや低下していると当社は見ている。米国を中心に試験走行は続いているが、あくまで限定された地域における運行であり、また当然ながらPOV(Privately Owned Vehicle、個人ユース)ではない。
少なくともライドシェアやロボタクシーなどコマーシャルユースの分野では、車両コスト面での制約が少なく(タクシードライバーの年収×使用期間相当のコストは、車両コストとして商業分野の顧客にとっては許容可能と当社では見ている)、個人ユースに先駆けて商品化される可能性が高いと考える。
しかし根本的には自動運転技術は、3D-LiDARセンサーや3Dマッピング、半導体等のコストに鑑みれば、手頃な価格で一般消費者に提供するには相当の時間がかかるだろう。例えば3D-LiDAR(メカニカル)単体でも300万~500万円のコストとなり、車輌1台当たりの搭載数量も複数個になる可能性が高い。
3D-LiDARセンサーの開発競争に注目
自動運転車の本格普及に向けては、各国の法整備の進展は当然ながら、ハードウェアとしては特に3D-LiDARセンサーのブレークスルーが不可欠であろう。周囲にあるクルマや障害物までの距離や方向を正確に把握するための3D-LiDARセンサーの開発では、メカニカルLiDARから半導体ベースのLiDARへの開発競争が激化している。
現在、1個当たり数百万円するコストを10万円以下に抑える技術がいつ商品化されるのか、まだ明確な解はない。明確な技術トレンドが見えていない現時点では、自動車メーカーとして商業ユースでの知見を蓄積しつつ将来の個人ユース車両開発の布石を打つことは理にかなった戦略である。
2018年10月トヨタ自動車とソフトバンクがMONET Technologiesの設立を発表。MaaSにおけるプラットフォーマーを目指す。
湯澤康太◎ゴールドマン・サックス証券マネージング・ディレクター。2001年入社。投資調査部門に所属し日本の自動車産業の調査を担当。現在は中国・インド・韓国を含むアジアの自動車産業の調査も統括。