2020年 日本酒ビジネスを読み解くキーワード6

2020年を迎え、日本酒というプロダクトそのもの、またそれをとりまく周辺環境はどのような進化を遂げるのか。旧習にとらわれない製品開発と販路開拓で業界に一石を投じたイノベーター、生駒龍史氏をはじめ4人の識者とともに考える。

海外市場の醸成


生駒龍史(以下生駒):日本酒のこれからを考える前に、まず現況を共有しておくと、その生産量は1973年をピークに毎年減少傾向で、現在3分の1以下に落ち込んでいます。ただ、純米酒や純米吟醸、純米大吟醸など質にこだわった酒はわずかながら増加しているか、現状維持の状態。一方で日本酒の海外輸出は現在234億円を超え、10年連続で過去最高値を更新しているので、順調に推移しているかと。とみると、海外はやはり今後の重要な販路となりますね。

坊垣佳奈(以下坊垣):海外市場でもっとも大きいのは米国、次いで香港・中国、さらにそのほかの国と続いていますよね。やはり和食の人気と連動しているのでしょうか。

藤原 龍(以下藤原):私はシンガポールで日本酒専門ソムリエとして勤務していた経験がありますが、海外のお客様の知識は思っていた以上に高いと実感しました。燗酒を食中酒としてオーダーする方や、精米度合を尋ねるなど、マニアックな方もいらっしゃいます。

生駒:月桂冠など大手が米国に進出したのは80〜90年代とかなり早いのですが、我々にとって印象的だったのは「旭酒造」(山口県)の「獺祭」がオバマ大統領によるホワイトハウスの公式ディナーで使われたこと。「獺祭」は海外では質の高いSAKEの代名詞となっていますね。

藤原:「醸し人九平次」(愛知県・萬乗醸造)が「ギー・サヴォワ」(仏パリの三ツ星料理店)で採用されたのも驚きでした。

生駒:ほかにも「南部美人」(岩手県)はユダヤ教の教義にのっとったコーシャ認定を取得したり、ミャンマー、アフリカなど新しい市場の開拓にも積極的に取り組むなど意欲的。現在、日本の酒造メーカーの約半数が海外輸出に取り組んだ実績があります。

レベッカ・ウィルソンライ(以下レベッカ):私も海外でSAKE人気が高まっていることはうれしいのですが、一方で気になることもあるんです。質の高い日本酒が海外へ出ていくならそれなりのケアやエデュケーションが必要なはずなのに、市場はいまだそのレベルに達していません。例えば、流通、輸出のプロセスにおいての扱い、酒販店、飲食店での保管状況、酒器の選びやサーブの仕方……1本の日本酒が日本で造られてから、飲む人の口に入るまでさまざまな人の手を経るわけですが、そのすべてにおいてまだ十分な知識や経験の共有が行われ ているとはいえません。

藤原:日本酒をベストな状況に置くには、種類にもよるもののマイナス5℃の氷温で保管するのがよいとされています。海外の多くの飲食店ではワインセラー(12〜15℃)で保管するか、なかには常温保存のところも。
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text and edit by Miyako Akiyama

この記事は 「Forbes JAPAN 4月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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