2020年 日本酒ビジネスを読み解くキーワード6


発想の転換


坊垣:日本酒のマーケットをもっと大きくしていくためにワインをベンチマークにしている酒蔵は多いですね。

生駒:まず浮かぶのは「萬乗醸造」の「醸し人九平次」です。13年より醸造スタッフをブルゴーニュに駐在させるなど、ワインをヒントに日本酒の新しい価値観を模索しています。

また日本酒は基本的に醸された年のもの、つまり新酒を飲むのがよいとされてきましたが、「黒龍酒造」(福井県)は長期熟成を見据えたヴィンテージ日本酒に早くから取り組んできました。18年には自社の4種類のヴィンテージ日本酒を出品する入札会を開催するなど、日本酒の新しい価値を問いかける取り組みは業界内でも大きな 話題となったから、記憶に新しいところでしょう。

藤原:ヴィンテージ日本酒である「無二」(黒龍酒造)は四合瓶の市場価格で18万円以上の値をつける高額商品になったんですよね。そもそも、日本酒のプライシングはワインに比べて安価すぎるという指摘も多いですが、そこに一石を投じているのが生駒さんの「SAKE100」です。

生駒:「SAKE100」はこれまでの日本市場にない“ラグジュアリーブランド”の確立を目指し、日本酒を知り尽くしたメンバーが新たなコンセプトと味わいを描き、最高峰の技術をもつ日本各地のトップレベルの酒蔵とともに、オリジナル商品を開発するというサービス。海外の日本酒コンクールでも高く評価され、国内でもホテルや高級レストランを中心にその支持を拡げています。

世界のアルコール市場は付加価値への理解が深く、高単価・高品質・高付加価値のラグジュアリーマーケットが確立されていますが、既存の日本酒市場はコモディティ化しており、安くておいしい酒と、それよりひとつ上のプレミアムマーケットの二階層しか存在していませんでした。世界で日本酒を拡げていくには日本酒そのもののブランド化が必須であり、そのためにはマーケットの最上位から開拓すべきと考えています。

そしてぼくら以外にも、日本酒ベンチャー「Forbul」は水曜日にしか販売しないというユニークな手法で注目を集めました。四合瓶で13,200円という高額商品にも挑戦し、日本酒の高価格市場を開拓することにもチャレンジしています。もちろんこれは安価な日本酒の否定ではありません。市場の醸成とともに最終的には「安くておいしい日本酒」の時代がやってくるはず。あくまでプライオリティの問題で、まずは高価格市場の開拓が最重要だと考えています。

次世代の登用


レベッカ:そもそも日本酒業界にベンチャーが参入したのも最近じゃないですか。やはり日本の伝統産業だけあって、そのカルチャーもやや保守的なところがあると感じています。


レベッカ・ウィルソンライ氏

坊垣:ゆっくりながらも世代交代が進んでいるという印象です。御年87歳になる農口尚彦杜氏による「農口尚彦研究所」(石川県)では、農口杜氏が自分のミッションは自分の知識・技術を若手に継承することと明言し、日々後進の指導にあたっています。昔ながらの職人技の世界では先輩の仕事を見て盗め(学べ)と言われてきましたが、2000年代の日本でそれはもはや通じませんよね。

レベッカ:杜氏に若手が増えてきて、かつ女性も登用されるようになってきたのはうれしいこと。新澤醸造店(宮城県)の杜氏はなんとまだ24歳の女性なんですよ。
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text and edit by Miyako Akiyama

この記事は 「Forbes JAPAN 4月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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