当初の目標金額は30万円。蓋を開けてみると、想像を超える支援が寄せられた。
『Makuake』プロジェクトページ
集まった額も人数も驚きだったが、木村氏は「クラウドファンディングをやって良かった」と強く感じたことがあるという。それは、これまで木村石鹸を「密かに応援してくれていた」顧客と直接つながれたことだ。
「私たちを応援いただく声は、この数年で少しずつ増えてはいました。けれど、今回のように形ある、まとまりをもった熱量として伝わってくることはなくて。
12/JU-NIを待ち望んでくれた方たちの声と、それを見て賛同してくれた方の応援コメントを見ていたら、今までの消費体験と少し違うなと思いました。このプロジェクト、あるいは木村石鹸に“賛同するから買う”という気持ちが、すごく伝わってきたんですね。この方々との関係をしっかり深く、長く続けていきたいなと、はっきり実感できました」(木村)
新工場で、顧客や社員と“楽しい”をつくる
「ファンとブランドの関係づくり」という意味で、木村石鹸の大きな転機になりそうな取り組みがもう一つある。製造設備の移設を進める『IGA STUDIO PROJECT』だ。木村氏はここをただの新工場ではなく、「顧客との交流を深める場所にしていきたい」と語る。
木村氏「たとえば、製造の裏側を気軽に見てもらえるようにしたり、ワークショップルームをつくって実際の石けんづくりを体験してもらったり。お客さまを積極的に巻き込んで、新しいプロジェクトが生まれる空間にできればと考えています。
木村石鹸と関与した人に『より好きになってもらえる』場にできたらいいなと思いますね」
工場ではなく「スタジオ」の入り口のような雰囲気の『IGA STUDIO PROJECT』
IGA STUDIO PROJECTを建設する直接のきっかけは、現工場の老朽化だ。そこに向き合うなかで、未来のモノづくりを見据え、木村氏は三つのことを決めた。
木村氏「一つは、最近よくあるファブレス(工場を持たない会社)にはせず、新しい拠点を設立すること。釜焚き製法を含め、自社で石けんをつくり続けることが、やっぱり『木村石鹸っぽい』だろうと思ったんです。
加えて、単に生産量や生産効率だけを求めないこと。それを追うと『たくさんつくって、たくさん売る』が前提になりますが、これから先の時代、そんなモデルってもう成立しなくなりますよね。数字ではなく、『一人ひとりの顧客とどう深い関係を築けるか』を重視したい、それを体現できる工場にしたいと考えました」
「もう一つは、社員が働きたくなるような楽しい場所にすること。誰だって、単純に流れ作業の歯車になるだけの仕事はやりたくないですし、そこから良い製品も生まれない。自分たちでいろんな挑戦ができる、よりクリエイティブでおもしろい工場にしたいなと思っています」(木村)
モノをつくる工場から、“楽しい”をつくる工場へ。木村氏が顧客はもちろん、社員の楽しさを考える根底には、あらゆるステークホルダーの幸せを目指してきた同社の姿勢がある。