ビジネス

2020.04.09

木村石鹸がヘアケア商品を開発した理由──小さなつながりを、より深く、そして長く

木村石鹸代表取締役社長 木村祥一郎氏


「そもそも木村石鹸は部署に関係なく、『つくりたい』という思いがある人がつくり、責任を持って売る会社です。仮に結果として売れなくても、最後まで開発者が『自分は顧客だ』と思える、そんな製品だけをつくっています。

12/JU-NIは、前職で長くヘアケアに携わってきた多胡健太朗という社員が開発しました。彼は木村石鹸の考え方に共感し、自らも『良い原材料をきちんと使って、本当に効果があるものをつくりたい』と転職をしてきてくれた人間です。これまでもいろんな製品の開発をしてもらいましたが、長年関わってきたシャンプーづくりには並々ならぬ想いがあり、彼自身が納得できる製品を目指して何度も試作を繰り返していました」(木村)

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木村石鹸工業・代表取締役社長 木村祥一郎氏

「多胡は謙虚な性格なので、開発した製品の良さを自分で口にすることがほとんどありません。その彼が2018年の暮れに、グループチャットで『すごいものができました』と報告してきたんです。そんなことは一度もなかったので、社内がざわつきましたね(笑)。

実際に試作シャンプーを使ってみると、これがびっくりするぐらい良かったんです。従来のものと比べて、驚くほど髪のまとまり方が違う。『何としても世の中に届けたい』と思えるものでした」(木村)

その後、木村氏らが170人ほどにサンプルを配ると、さらに大きな反響があった。8割ほどのユーザーが「すぐにほしい」と声を返してくれたのだ。

「まだきちんと製品になってなくて構わない」「何とかして譲ってもらえないか」。過去、さまざまなサンプルを使ってもらうなかで、ここまで強く求められたことはなかったという。熱烈な反応を前にして、木村氏は製品化を決意した。

クラウドファンディングで体感した「顧客の熱量」


しかし、「良いもの」をつくるべくこだわり抜いた結果、12/JU-NIには課題もあった。

一つは、非常にシビアな条件でしか生産ができないこと。ビーカーの試作と大型タンクの生産では全く違うなかで、スケールアップが非常に難しい製品だとわかった。

また、訴求ポイントのセオリーである「○○由来」「○○不配合」などの要素を一切考えず開発したため、「圧倒的に良い」と思えるのに、特徴をわかりやすくアピールできる言葉が何もなかったという。

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「サンプルテストの結果、1割ほどの方は髪がまとまり過ぎてしまい、全く合わないことも明らかになりました。要するに、非常に“極端な”製品ができてしまったんです。

幅広い展開が難しいとわかるなかで、まずは大々的に売り出すのではなく、サンプルで熱烈な反応をくれた方に応援してもらおう。そこから少しずつ話題をつくろうと考えました」(木村)

手法として選んだクラウドファンディングでは、製品の良さや木村氏と多胡氏の思いなどをプロジェクトページで丁寧に伝えながら、「ある人には120点でも、ある人には10点、20点というケースも出ています」とも記し、正直さを貫いた。
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執筆/佐々木将史 編集/庄司智昭 撮影/其田有輝也

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