分断を乗り越える「自分ごと化」|逆境を生き抜く組織カルチャー Vol.2

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プログラムの開始は前回の事例と同じように、アイスブレイクから始めました。これから始めるのは「対話」であり「ジャッジ」ではない、という目線合わせです。その後、自分たちが感じている課題を出してもらいます。

多くの日系の海外拠点や企業でも共通して聞かれる言葉ですが、この企業でも「結局日本人は、自分が一番偉いと思っている」という声が聞かれました。それが本当かどうかは分かりませんが、そう感じる人がいる、という時点でそれは真実です。

しかし、課題を出しきっていく過程の中で、色々な立場の取り方がある、とみんな気づいてきます。まず、周囲が「分かっていない」と文句を言い続ける人。リスクはなく、安全ですが、当然現状は変わらない。他方「分かっていないから、俺が解決してやるよ」と行動を起こすタイプの人もいます。行動は起こすのですが、問題は引き続き「他の誰かのもの」なので、周りは心を開かない。正論を言っても人がついて来ない。そういう経験をする人は多いと思います。

ずっと対話を続けていくと、最終段階には、人や制度のせいにしていたこの問題は「自分が生み出している」、「この問題のサイクルの中に自分も確かに存在する」、ということに気づきます。例えば、「日本人は自分が一番偉いと思っている」と言う人は、どこかで自分も日本人を蔑視していたりする。「どうせローカルのことは分からないよな」と、自ら距離を置いて分断している。

一生懸命みんなを引っ張ろうとリーダーシップを発揮しようとする人は、強権的になればなる程、みんなの心が減退していく。その起点には自分がいる、ということに気づきます。

この企業の日本人社長の方は、本当にバリバリ仕事をされる方で、「リーダーとはこうあるべきだ」という思いが強く、強いリーダーシップを示そうと努力されていました。すると、周りから「話を聞いてくれない」という声があがってくる。本人は英語の苦労もあり、それを埋めるためにも、より強いリーダーシップが必要だ、と思っていた。しかし、そうすればするほど、みんなの心はどんどん離れていくという構造でした。

最初にきっかけを作ったのは、社長でした。

「自分は一人で苦しんでいた。なんでも一人でやろうとして、周囲を自分の価値観で見ることをやめませんでした、皆のことをよく知ろうとしていませんでした」

建前ではない、本心の弱さを開示する言葉によって、会話の質は変わっていきました。グループ内で自らを省みる言葉が明らかに増え始めました。

そして対話が深まったところで、「皆さん自身、チーム、会社にとって、本当に成し遂げたい、理想の姿は何でしょう?色々思う現実はあるかもしれません。でもここでは発想のリミッターを外して、ぜひ思い切り描いてみてください」と問いかけました。

半信半疑の様子でペンを取っていましたが、ここで場は大きく変容しました。

「いきいきした会社」
「新たなマーケットで新たなビジネスが生まれている!」
「部署間の連携」
「本社を引っ張る根幹技術を生み出している」

といった前向きな言葉が多く飛び出し、場はエネルギーで溢れました。
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文=岩坪文子

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