「べき論」からの脱却 |逆境を生き抜く組織カルチャー Vol.1

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仕事のことになるとどうしても「正しい」「正しくない」「良い」「悪い」で価値判断しがちですが、人の人生を価値観で否定することはできません。お互いの発することを受け取り合う、という純粋な対話からはじめてもらいます。

しかし、2日目に本題に入ってこのプロジェクトについての良い点、悪い点をそれぞれ挙げていく、というワークをチームに分かれて始めてもらうと、お互いの「べき論」や正論の応酬が始まりました。非難や、見下しのトーンが強くなってきました。そのように感情が噴出した時には、一度全部出してもらうことにしています。出しきったところで、本当はどうしたいのかを模索してもらう。

この時も、用意していたプログラムを一旦キャンセルし、円になって2〜3時間の対話の時間を取りました。ただし大切なこととして「それは違う」「事実ではない」というのは止めましょう、というルールにしました。相手にそう見えている時点で、それは真実ですので、否定するのはやめましょう、ということを言いました。

延々と相手や第三者を責める言葉が飛び交う中で、あるとき、現地に勤めている日本人の参加メンバーの方が、小さな声でこう言いました。

「自分だって変わりたい。リーダーシップを取りたい。でも難しいのです」

その表情は切実で、絞り出すような声でした。私には悲痛にも真実を語っているように思われました。本当はいがみ合っている場合ではない。協力をしなければいけないのだけれど、みんなをまとめられないという歯がゆさがありました。

多くの場合、そのような声は、激論の場の中では聞き逃されます。そこで、一通り場が落ち着いた時に、私は彼の言葉を繰り返しました。そうすると、彼はその場で泣き崩れられました。場の雰囲気が変わった瞬間でした。

「自分の弱さを開示していく」ということは組織では中々起こりません。しかし、ひとたび起こると伝播していきます。経験則的に言えば、ほぼ確実に起こります。そこから全体の思いやりが高まり、会話の質ががらっと変わっていきました。

最終日、グループからは「もっと人の話を聞きたい」というファーストステップ宣言がされました。プロジェクトの具体的内容に話が及ぶと、やはり強い意見が飛び交いますが、それでも相手の声を聞き、考えを理解しようとする姿勢が維持されます。少なくとも、そんなキーマンが数名いることで、場が保たれました。

現在の複雑なシステムの世界の中で、AをインプットするとBがアウトプットされる、という単純な因果モデルは存在しません。人や組織は最たる例です。そんな複雑なシステムの中に私たちがいることを理解することが大切です。

組織カルチャーとは、個々人の関係、行動の蓄積で、それが全体の価値観として現れるものだと思います。自然発生しうるものですが、意図をもって全体をつくりあげていくために、誰か強い想いをもった人がいる、というのはとても大事です。だからこそ私たちは単にソリューションを提案するのではなく、クライアント側の意図を常に大切にしています。組織内の信頼に基づく相互関係、「ソーシャル・キャピタル」と言われますが、その価値を信じて「一緒にやろう」と言ってくれる方と共に作り上げていくようにしています。

「組織が、組織が」と、あたかも「組織」というものが元から存在しているように言われがちですが、組織をつくっているのは人間です。個人同士の関係性が組織をつくっています。それを豊かにするためには、個人の内省、内側への探求から始めるのが大事だと思っています。

文=岩坪文子

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