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フォーブス ジャパン編集部 編集者


「会いたくもない」「修復不可能だ」とお互いに言い合うくらい関係がこじれていましたが、それぞれの拠点のヨーロッパとアメリカ東海岸の中間地点、サンディエゴの海岸沿いのホテルに集まってもらいました。

色々な主張はありましたが、一貫していたのは「あいつらはわかっていない」ということでした。「ビジネスのやり方をわかっていない」「こちらの事情をわかっていない」。そして「元凶は日本の本社にあり、日本の本社がこちらの事情を理解してリーダーシップを取らないからだ」という主張が多かったです。こういった問題を海外に抱える日本企業は本当に多いと思います。自分たちではない「誰か」の責任であるという主張がほとんどでした。

──国籍が異なる組織間の紛争に、特徴はありますか?

たくさんありますが、3つ挙げます。

1つは、お互いに「べき論」を述べ続けていることです。お互いの正論があり、「だから相手側の主張は間違っている」と見えてしまい、平行線を辿る。「べき論」が横行するときは、だいたい場に本音が出ていないことが多いです。まず「主語」が曖昧になる。「仕事ってこうあるはずですよね?」「まずは顧客の声を聞かないとビジネスなんて成り立たないですよね?」「いやいやまずはアイデアがあってそこに顧客がつくんだ」「あなたのためを思って言うが、こうすべきだ」と。

ここで抜けている視点は「あなた自身がどうしたくて、それを言っているんですか?」あるいは「あなた自身は問題にどう関わっているのですか?」ということです。

2つ目は「日本人だから」「アメリカ人だから」「ドイツの文化だから」といった類型化による主張が多い。国籍による組織文化の違いは、古くはオランダの社会心理学者、ヘールト・ホフステードによる研究や、最近も関連書籍が出ていますが、リアルな組織紛争を扱う場ではあまり役に立たないことが多い。まず個別の例では誤っていることが往々にしてあります。非礼で主張の激しい日本人もいれば、陽気で細かい作業を嫌うドイツ人もいる。「〜の文化だから」と一般化してしまうと、そこで思考が止まる。

3つ目は、強い声の中に埋もれて声を挙げられていない人たちがいることです。多くの対立は、声の強い人たちが中心人物になり、そこから分断を生む構造です。しかし、1人ひとりがどんな思いでその場にいるのか、小さな声のサインを見逃さないことが大切です。例えば、何となく一つの側に立っているが、実は上司に気を遣っていて、本当はカウンターパートと協力したい、本当はもっと相手側に寄り添いたい、こんな争いをしている場合じゃない、と思っている人がいるかもしれない。そんな人たちが声を上げるとき、場全体の思いやりが高まることがあります。

組織の紛争、組織づくりのプログラムを行うときは、最初の関係構築にたっぷり時間をかけます。この情報機器メーカーの開発会社の事例でもそうでした。簡単なゲームをしたり、生い立ちや、家族についての話をします。これはとても重要な時間です。お互いの価値観の源泉が見えるので、なぜこの人は普段このように振舞うのか、理解が深まります。

このケースでは、いがみ合っている相手にもこんな幼少期があったんだ、と知ることだけでも緊張が緩み、大きな意味がありました。

文=岩坪文子

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