「べき論」からの脱却 |逆境を生き抜く組織カルチャー Vol.1

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ある時には自分の立場よりもずっと上のアメリカ人カウンターパートから「このことについて教えてくれ」と電話がかかってくることもありました。言語や文化の違いから、うまく伝わらないこともありますが、そこを丁寧に拾って説明することで、相手との信頼が生まれてくる。相手のグランドに立って生きた言葉で説明することで個人的なケミストリーが生まれ、情報の共有が早くなり、検討も早くなりました。

しかし、私自身の個と組織の関係の観点でいうと、学生時代から社会適合をする性格が強かったと思います。つまり、誰かの期待に応えたり誰かから評価されようとしたり、周囲の輪を乱さないようにしたり。そうすると褒められるし評価される、それをもっともっと、と求めて自分ではない誰かになろうとする。続けているうちに自分って一体何をしたい人なの? ということがわからなくなる。すべてがそうではないですが、そんな一面が強かったと思います。

問題は、自分がそうした形で反応的に生きていることに無自覚だったことでした。

本当に在りたい姿を求めたい、生きたい姿を追求したいと思いましたが、辞める時は正直迷いました。尊敬する人から止められたり、辞めて失敗した人のケースが耳に入ってきたりもしました。つまり名誉や体裁を守ろうとする自分の社会適合的人格が邪魔をしてきたのですが、最終的に選択できたのは、仲間のおかげです。

──黒川さんがこれまで手掛けてきた、組織における課題解決、人材開発の事例を教えてください。M&Aで生まれた多国籍チームの問題解決に取り組んだ事例があるそうですね。

パートナーは日本の大手情報機器メーカーで、従業員は連結で4万人以上、創業70年の老舗です。日本以外でも数十カ国に拠点を持っていました。元々、その企業の開発部門の管理職全員を対象に、リーダーシップ開発と組織開発のサポートをしていました。その延長線上で、同社の役員の方からご相談があったのが「ドイツの子会社とアメリカの子会社の間で共同プロジェクトを進めているが、組織間の不和があってプロジェクトが進まず悩んでいる、やってみてくれないか」ということでした。

──チーム内ではどのような不満や問題がありましたか?

日本企業の下でアメリカ企業とドイツ企業が共同で取り組む開発プロジェクトでしたが、それぞれの思惑が異なっていました。そのプロジェクトを進めないと事業が立ちいかなくなる、という立場もあれば、そのプロジェクトによって自社の売り上げが毀損するのではないか、という立場もあり、様々な駆け引きが行われる中で「言った、言わない」、「この約束を反故にした、向こう側は不誠実だ」といった感情論にまで発展していました。

プログラムに参加したのは約15名、開発会社だったのでエンジニアが中心です。ビジネスサイドも何名かいました。参加メンバーはご相談いただいた日本の本社役員の方が選抜されました。ポジションや国籍はバラバラです。日本の本社から出向したマネジャーや、現地のアメリカ人マネジャー、ドイツ人マネジャー、現地採用の日本人もいました。
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文=岩坪文子

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