19年8月、 仏ビアリッツで 開催されたG7サミットにおいて、ファッションとテキスタイル関連企業32社は「気候変動」「生物多様性」「海洋」に対して業界が及ぼす環境影響を抑えることを目標に掲げる「FASHION PACT(ファッション協定)」を表明した。
これはG7に先立ち4月に、マクロン大統領がケリング会長であるフランソワ=アンリ・ピノーに与えた、同業界全体で連帯して環境に与える影響を削減するため、実践的な目標を設定せよというミッションによるもの。
グッチ、ボッテガ・ヴェネタ、サンローランなど名だたるハイブランドを保有するケリングが、アディダス、シャネル、プラダなど他のビッグネームと志をひとつにするというコミットメントは、業界における環境対策に大きな一石を投じた。
ケリングのチーフ・サステナビリティ・オフィサー兼国際機関渉外責任者、マリー=クレール・ダヴーは「ラグジュアリー業界・商品では、高品質な原料が非常に重要です。私たちの製品で使用される美しい素材の多くは温暖化などの気候変動により、たやすく破壊される危機にひんしています。将来に至るまで長く成功し続けるためにも、サプライチェーンを含む業界全体の変化を促し、イノベーションを助けていきたいと考えています」と語る。
ケリングがサステナビリティに取り組んだのは業界の中でもいち早く、2000年に入ってすぐにPPR(のちのケリング)が社会責任と環境責任をグループの事業活動の中核に据えている。15年にはグループとして、バリューチェーン全体が環境に与える負荷を貨幣価値で換算する「EP&L(Environmental Profit & Loss/環境損益計算書)」の数字を公開した。
これは原材料の生産から、製造、輸送、ブティックでの販売に至るまでの全工程において、環境負荷を貨幣換算することができる画期的なツールであり、16年にはモバイルアプリ「My EP&L」をローンチし、誰でもファッション製品における環境負荷を算出できるようになった。同アプリはファッションを学ぶ学生に対し、デザイン過程の初期段階からサステナビリティについて考慮することの重要性を伝える有効なツールとなっている。
またファッションにおいては原材料の生産や処理が環境に大きな影響を与えることから、13年には、オーガニックコットン、同シルクなどサステナブルな素材を特定し、ブランドがそれらの素材を採用するためにサポートするマテリアル・イノベーション・ラボをイタリアに設立。今年5月にはサプライチェーンを含むすべての動物を対象とした動物福祉規定を公開した。
牛や子牛、羊、山羊などの繁殖、飼育、毛の刈り方や食肉処理に至るまで細かく規定されたこのスタンダードは、ケリングのみならず業界全体で広く適用されれば、世界規模での動物福祉改善につながるものだ。
17年には、地球、気候変動、天然資源へのCARE、従業員、サプライヤー、カスタマーとのCOLLABORATE、新世代育成、革新的なアイデアのCREATEの3Cを掲げた「ケリング2025」を発表。25年までに温室効果ガスを50%削減、原材料の100%を追跡可能にする、など具体的な数値目標を含むコミットメントはファッション業界に広く影響を及ぼすだろう。
例えばジャケットをどんな素材で、どこで製造するのか―選択することで発生する環境負荷をユーロ単位で算出することができるモバイルアプリ「My EP&L」。日本語版も2018年に発表。