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「ベンヤミン・アンソロジー」

各界のCEOが読むべき一冊をすすめるForbes JAPAN本誌の連載、「CEO’S BOOKSHELF」。今回は、ロボット投信代表取締役社長の野口哲が「ベンヤミン・アンソロジー」を紹介する。


著者ヴァルター・ベンヤミンは、ドイツの批評家であり、多くの人にインパクトを与えた思想家。私は、育った環境の影響もあってか、以前から思想系の書籍に触れる機会が多かったうえ、映画や写真など身近なことについて論じることが多いベンヤミンに魅了されて、彼に関する書物を読むようになりました。

特に、メディア理論を書いた「技術的複製可能性の時代の芸術作品」という論文は、ここ10年間で繰り返し読むほど興味深く、彼の代表的な著作を集約した本書にも取り上げられています。その論文の中で最も印象に残っているのは、現代のメディアの変化を、彼が1900年代前半に予測していたのではないかと思えるところです。

彼は、「複製技術というテクノロジーによって、いま、ここに存在していることが重要だった宗教画や肖像画などの絵画は大衆化し、多くの人に観られることでオーラを失う。映画などの新しいメディアの登場によって、芸術の根本的な機能に変化が生じている」としています。確かに、どんなに素晴らしい画家の作品であっても、残念ながら、写真で観る絵画からオーラを感じることはなく、古くからある能などの伝統芸能をスマートフォンで観たとしても、その迫力は半減してしまうでしょう。その芸術作品の存在価値は、新たなメディアの登場によって大きく変わることになるのです。

彼が考えていた通り、メディアはいまもテキストから動画、さらに新たな媒体へと進化し続けています。しかし、ベンヤミンが生きていたのは、インターネットも3Dプリンターもなかった時代です。ネット上などで急速に拡散されるようになったことで、ベンヤミンの想像をはるかに超える早いスピードで変化を遂げるようになりました。

そしてこれからも、新しいテクノロジーは次々に誕生します。そのテクノロジーは、芸術やメディアに留まらず、多くの業界に浸透し、変化をもたらすでしょう。もちろん、私が属している金融業界にも。そのテクノロジーに直面したときに備えて、我々は、過去と照らし合わせ、その時代の人々が変化とどのように向き合い、受け入れてきたのかを振り返り、学ぶことはとても大事なことです。

いま、目の前にあるものは必ず複製され、簡単に次のものにとって代わります。本書のような古典は抽象的な読み物ですが、その抽象的な中から見出した共通点は、きっとこのようにビジネスのヒントになってくれるはずです。

現在手掛けているビジネスはどのように存在意義を変えていくのか、そもそも仕事とは何だろう、働くとはどういうことなのかを考えながら、お読みいただきたいと思います。


のぐち・さとし◎2007年SBIホールディングスへ入社し、決済・暗号・Webマーケティングを担当。11年からピクテ投信投資顧問で、公募株式投信のデータ解析・マーケット分析に従事。16年5月、投資信託のデジタルトランスフォーメーションを進めるロボット投信を創業。

構成=内田まさみ

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