サーシャ・コントレラスは絶望の淵に沈んでいた。時給12ドルで働いていたゼロックスのカスタマー・サポート部門を解雇され、住み慣れたワシントン州イェルムを離れなくてはならなかったからだ。さらに、1年前からミシシッピ州の田舎町にあるカジノでシェフとして働き始めていた夫が17年間連れ添ったサーシャを裏切り、浮気していることも発覚した。
職を失い、夫も失ったサーシャが寝る間を惜しんでグーグルで探し回っていたときに出会ったのが、ブルーカラーやサービス業界の労働者のための求職ソーシャルメディア・プラットフォーム、ジョブケースだった。
「あのサイトのおかげで、文字通り、私の人生は変わりました」。55歳のサーシャはそう語る。ジョブケースに無料会員登録しただけで、膨大な数の求人情報にアクセスできるようになった。さらに、サーシャと同じようにたった1人で求職活動をした経験を持つ多くの会員が次々とさまざまな情報を投稿していた。
そして、ある会員が投稿してくれたリンクをきっかけに、サーシャは2017年7月下旬、時給10ドルのカスタマー・サポートの職を得ることができた。さらに、その2年後、再びジョブケースを利用し、別の会社の時給13ドルのカスタマー・サポート部門に転職。現在は転職を考えていないが、ジョブケースには毎日アクセスしているという。
このサーシャの話を聞いたジョブケースの創業者で最高経営責任者(CEO)のフレデリック・ゴフは「ジョブケースはすべての人のためのサービスです」と語る。ゴフは15年にマサチューセッツ州ケンブリッジでジョブケースを立ち上げた。
思い描いていたのはリンクトインが現在もまだ実現できていない分野に切り込むことだった。リンクトインは創業以来、あらゆる労働者を支援することを使命としてきたと主張するが、大卒以上の学歴を持っていないユーザーはきわめて少ない。大卒以上の学歴を持たない米国民の80%が交流し、職を見つけ、より良いキャリアを重ねていくことを可能にするサイトを作ること。それがゴフの狙いだった。
ジョブケースは米国民の1.97億人をターゲットにしているが、その中の1.1億人はすでに同サイトの会員になっている。ゴフは18カ月以内にこのサイトをグローバルに展開することを計画している。G20全体でみた場合、市民の84%は大卒以上の学歴を持っていない。ゴフはこの市場に参入することにより、短期間で会員数を10億人に、時価総額を10億ドルに拡大させることができると確信している。
フレデリック・ゴフ◎ジョブケース共同創業者兼CEO。ケンブリッジ拠点のヘッジファンド、パーシピオ・キャピタル・マネジメントのCEOに就任するも2008年の金融危機により破綻。パートナーたちを説き伏せ、実用的な求人情報掲示板の運営資金を引き出した。