半世紀たっても変わらない 抗争を続けるアメリカの老年暴走族

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先日、ラスベガスの連邦裁判所で、実に9年もかかった刑事裁判が評決を迎え、全米に報道された。どんなものかというと、全米屈指の2大暴走族の抗争から発生した発砲による殺人事件の公判だ。結果は、おおかたの予想とは反するもので、死者が出たにもかかわらず、無罪だった。

この日、裁判所から、長髪の白髪頭で真っ白なあごひげを生やし、地味なコットンシャツを着て、片手に訴訟書類のバインダーを持った老人が現れると、カメラの放列から一斉にフラッシュを浴びた。

このどこにでもいそうな72歳の老人こそ、ジェイムス・ジレスピーという、この抗争する2大暴走族のうちの一方の当事者、「ヴァーゴース」の現役のリーダーであった。

彼は、今回の殺人事件の被告人の1人として起訴されていたが、9年間の裁判で、発砲は意図されたものではなく、偶発的なものであったとして殺人罪を免れた。検察は、過失致死罪を起訴状に加えていなかったので、陪審員はやむなく無罪を言い渡した。

「イージー・ライダー」に魅せられた世代


アメリカの暴走族の歴史は長く、現在は「合法ギリギリを行くアウトロー」として、その存在を広く知られている。ほとんどがハーレーダビッドソンのバイクにまたがる成人の集団だが、彼らは日本の暴走族と違って「卒業」はしない。

映画「イージー・ライダー」(1969年)に魅せられた世代が、そのまま現役として残っており、主要なメンバーは60代や70代で、40代や50代のライダーはまだまだ使いっ走りで、20代や30代になるともう「鉄砲玉」だ。普段は数十人の集団をなして、ツーリングを楽しむモーターサイクルクラブに他ならない。

ラスベガスに居住する筆者は、仕事でロサンゼルスまで車を運転する機会も多いが、荒野を貫くハイウェイを走っていると、5回に1回くらいは、こうした集団に出会う。とはいえ、ほとんどのクラブは、別に暴走行為などの違法行為はせず、ただのバイク好きだ。

ただのモーターサイクルクラブと暴走族まがいの集団を見分ける手立てはあまりないが、後者は、大きなロゴを革ジャンに刺繍したり、旗にしたりして走っている。もちろん、圧倒的な数で並走していることと、世界規模のネットワークを持っている点も、愛好集団とは大きく違う。

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今回の被告である72歳の老人がリーダーのヴァーゴースは1965年の設立。現在4000人のメンバーを擁して、北米やメキシコを中心に200の支部を持っている。抗争の相手である同じ暴走集団の「ヘルズ・エンジェルス」は、1948年の設立で、世界59カ国に500の支部があり、2500人のメンバーを抱えている。両方ともカリフォルニア州のサンバーナーディーノ市で誕生している。

日本の暴走族と違って、彼らは一般ドライバーを威嚇することはない。普段はそれぞれ堅気の仕事を持った社会人だ。ところが、一旦、黒い革ジャンを羽織って、顔半分を覆うようなサングラスをかけ、バンダナを頭に巻くと、たとえ居酒屋で見かけただけでも近寄りがたいものがある。

彼らは、「イージー・ライダー」が描いた60年代後半のアメリカ文化に憧れており、ベトナム反戦、ヒッピー文化、コカインの使用と、徹底した反体制のオーラを発している。そして、いっときバイクに跨がると、そこではチームの掟が何よりも重要視される。
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文=長野慶太

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