旅ができる暮らしを取り戻すまで。観光プロデューサーとして今できること

(Getty Images)


そんななか、いま世界で最も状況が深刻を極めているニューヨーク在住の知人からメールが届いた。

彼は、アメリカ在住35年、メールの内容は「ニューヨークはいま、ニュースでも流れているように、人々の仕事は止まり、街はひっそりとしている。最低限のところは動いていて、散歩や食料の買い出し、ドライブは許されている。こんな世界はSFかと思うくらいで、私も自宅にこもって今日で10日目になるが、こんな日常でも、新しい日常として順応するペースが出てきた」というものだった。

彼が住んでいるクイーンズ地区は、ニューヨーク市内でもいちばん感染者が多く、「震源地」の近くにいるという危機感のなかにいるものの、今後については「こんな静かな世界でも、オンラインが活発で経済的には活動している。まさにいままであったものが剥がれ落ちて、あれもこれも要らなかったのではないかと、いろいろなことに気付いてしまう世界がやってきた。これから劇的な構造改革が起こるような予感がする」と極めて冷静に考えていた。

彼自身は、米国で、2001年のアメリカ同時多発テロ、2003年のブラックアウト(大停電)、そして2008年のリーマンショックも経験し、それを乗り越えてきた人間なので、「危機対応には慣れている。経済的にも精神的にも乗り切る自信はあり、収束の時期がいつ来るか、それを待っている」といつもの彼らしい確かな言葉でメールしてきた。

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4月5日のニューヨーク(Getty Images)

しかし、日本にいる私たちに対しては、「日本はまだこれから拡大する状況にあるなかで、こちらの対応と比べて、かなり緩い。人と人の間に1.8mから2mの社会的な距離を取るソーシャルディスタンスの指示も出ていない。だから花見などはもってのほか」と強い口調で書いていた。

今の状況で感情は贅沢品


さらに、彼からのメールをもらった翌日には、ニューヨーク州知事のアンドリュー・クオモ州知事が発信したメッセージも送られてきた。

「新しいデータが毎日届く。元気づけられる数字もあれば、暗くさせられる数字もある、意味のわからない数字だってある。しかし、リーダーとして私は、その厳しい正確な数字を伝える義務がある。なぜなら、恐ろしい現実でもそれを知らされないこと、情報が得られないことのほうが、皆さんにとって不利益と考えるからです。政府が何かを隠している、政府に騙されていると思われては、皆さんの不安を不用意に煽ってしまうことにもなる。ここで公表する事実は、私が知っている限りの全ての、最新の事実です」

このクオモ州知事のメッセージは、なんと力強い言葉だろうか。これに続いて、感染者が3万人を超えたこと、地域や医療対策への具体的な対応策、経済支援についての政府に対する意見などが述べられるなかで、印象的だったのが次の言葉だ。
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文=古田菜穂子

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