旅ができる暮らしを取り戻すまで。観光プロデューサーとして今できること

(Getty Images)


このように、日本よりずっと緊迫した状態にある欧州から発信された、UNWTOの「Stay home today so you can travel tomorrow」というメッセージに、私は、現実と未来をみつめる、まさに「観光産業」ならではの願いが込められているように感じた。

今日は、家にとどまり、感染の広がりを防ぐ。そうすれば、いつかは必ず、旅に出られる。「旅」とは、人生の旅でもある。私たちの日々の暮らしそのものとも言えるだろう。

観光とは光を見いだすこと


もちろん復興の前には、感染対策ありきだが、観光とは「光」を見いだすことでもある。今回の危機は、まずは感染を拡大させないという根本的な視点に立ち返ったうえで、明日に向けて万全な対策を講じつつ、同時に「復興」時も想定し、「いまできること」「いましかできないこと」を、この先の「光」を見失わないように粛々と準備をすることだとも思う。

その意味では、誤解を恐れずに言えば、例えば中国からの資材が完全にストップして国内生産が立ち行かなくなっている製造業などと比べると、外国人観光客がほぼゼロとなり、先の見えない状況ではあるものの、観光業の「資源」は、すべてストップしたわけではない、「光」がすべて消えているわけではないと私は思うのだ。
 
その「光」である「資源」とは、まず、第一に「人」の存在だ。そして、第二に地域に残る森や川や山や海などの「自然環境」と、そこに宿るさまざまな「動植物の力」だ。

新型コロナウイルスに対抗する手段が「免疫力」だと言われていることにも通じるように、人間の持つ顕在あるいは潜在的な能力を、こういうときにこそしっかりと引き出すようにするという、当たり前のことをもう一度、見直すことだと思う。

そのためにも「Stay home」のhomeとは、必ずしも「自宅」ばかりでなくてもいいと思う。自宅の近くで、心と身体が守られ、リラックスできる「居場所」ならば、そこにとどまって、まずは「防衛」し、そしてけっして感染を広げないことだ。

その居場所とは、いままで地域の人々からは見過ごされてきた森や山や川かもしれない。たとえ経済の循環が緩慢になっても、自分や他者の「命」を守るために、感染させない、されないという安全を担保するなかで、できることはきっとあるはずだ。
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文=古田菜穂子

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