咀嚼音が心地いい? 「ノイズ」に秘められたビジネスの可能性

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キッチンの音を聴きながらのほうが仕事に集中できるという例を挙げましたが、実は、これは私のことです。自分自身、高校受験の勉強をしているとき、自室よりも生活音がある環境でするほうが落ち着いてできたため、リビングで勉強していたという体験を持っていたのです。その体験から、いまでもキッチンの音は、私にとって「集中させてくれる良い音」として捉えられているのだと思います。

つまり、究極を言えば、どんな音でも誰かにとってのASMRになり得るということなのです。

企業のブランディングにノイズを利用


こんなことを、さまざまなASMRコンテンツを視聴しながら感じていたのですが、ちょうど同じ時期にもうひとつ、私がノイズにさらなる可能性を感じるようになった変化が、世の中に起きていました。

それは、スマートスピーカーが身近になったことです。ちょうどその時期、私の周辺でもスマートスピーカーを自宅に導入する友人が増えてきて、その様子は、近い将来、一家に1台どころか1人1台が当たり前になり、いまよりももっと多様な音声コンテンツが求められる時代が来ることを予感させました。

ましてや、いろいろな音がその人にとってのASMRになるのであれば、それは企業にとってはコミュニケーションのツールとして活用できるのではないか、とも思い始めました。この思いが、私が代表を務めるブランデッドオーディオレーベル「SOUNDS GOOD(R)」の構想へと繋がっていきました。

企業には多くのノイズが存在します。例えば、工場の製造ラインで発生する特徴的な音や、製品使用時の音や製品検査の音、それらは、咀嚼音などと同様、ずっと存在していたにもかかわらず、これまで着目されてこなかった音です。しかし、そういったノイズのなかには、独自の技術などが多く存在していて、いまのように差別化がしづらい世の中において、企業のブランディングに寄与できると感じました。

例えば、ミシンでロゴを縫う際のノイズでも、三角形を縫うか、四角形を縫うか形によって音が違うわけで、1つの作業でさえも無限に違うノイズがあるのだと感じ、「音とブランディングは相性がいい」と思い至ったわけです。

音は、映像や写真と違って抽象度が高いことから、コンテンツとしての側面だけではなく、アーティストにとってはサンプリング素材としての価値があったり、CMとして使うとしたら、効果音としての価値があったり、考え方次第で、音そのもの以上にさまざまな価値を創出します。

つまり、企業にとっては、これまで着目してこなかったノイズを、実は“音の資産”として捉えることができ、その資産の活用方法を提案できれば、「音によるブランディングビジネス」が成立すると考え、それをSOUNDS GOOD(R)で実践しているわけです。実際、幸運なことに、私たちの思いは、多くの企業へと拡がっていると感じているところです。

いま、この特殊な環境下、リモートワークなどで画面を見つめる時間がどうしても長くなっています。ときには目を休めて、ノイズの心地よさを感じてみてはいかがでしょうか。

文=安藤 紘

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