脳をだまして味覚を操作 「食のトリックアート」の魅力

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人の舌というものは、だまされることが大好きなようだ。料理人たちは太古の昔から、人々の味覚をだまし、予想を裏切る料理を作るべく試行錯誤を重ねてきた。

今は米インポッシブル・フーズ(Impossible Foods)の代替肉商品が人気を集めるようになったが、中国の一部地域では数百年も前から、宗教的な制約があったり、肉が手に入らなかったりする人のための実用的な配慮として、模倣肉やグルテン食品が使われてきた。

こうした料理の「トリックアート」は、視覚や味覚をだますことで、脳が食べ物に対する認識を変えるために用いられている。食品科学の世界では味の分子構造の探求が進んでおり、食品界でのイノベーションがこうした食品のトリックアートに寄与している。

醸造酒の世界では、ブドウや米、大麦などの主要材料を使わず、とうもろこしとイーストの分子をベースとしたワインや日本酒、ウイスキーがこれに当たる。エンドレス・ウェスト(Endless West)の共同創業者、アレック・リーは米誌Wine Spectatorに対し「私たちが使う分子は、ワインあるいはウイスキーに含まれる分子と同じもの。天然由来であることに変わりはない」と述べている。

同社の飲料は全て穀物の中性スピリッツをベースとしているため、アルコール飲料となる。その反対の例として、水に混ぜるだけでロゼワイン味のノンアルコール飲料が作れるというウォルマートの商品が最近話題を呼び、深夜トーク番組の司会者たちの格好のネタとなった。スティーヴン・コルベアは、ウオッカにこれを加えるとおいしいとしたある消費者の声を紹介した上で、「この商品はワインの良いところをすべて兼ね備えているが、ワインの唯一の良いところは備えていない」と冗談を飛ばした。

これと似たものとして、ビーガン(完全菜食主義者)がベーコンを食べたい衝動に駆られた時に使う「ミートパッチ」と呼ばれる商品も開発された。これはオックスフォード大学の実験心理学教授と、アイルランドの食品メーカー、ストロング・ルーツ(Strong Roots)が手掛けた限定商品で、こすって匂いを出す子ども向けのシールと似ている。パッチをこするとベーコンの香りが放たれるため、肉を食べたい気持ちを和らげることができる、というのだ。
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編集=遠藤宗生

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