ビジネス

2020.04.09

アートの「見えない価値」をマーケティングで最大化する方法

Westend61/Getty Images


話は逸れるが、前出の武田双雲氏は、小学校低学年のとき、美術の授業の課題で「ザリガニを描け」と言われ、爪の先端だけをどアップで大きく描いたらしい。私もかつて、晴天だった空の色を紫で塗ったことがあった。2人とも美術の先生からはこっぴどく怒られて以来、美術は苦手だった、そんなことで意気投合したこともあった。

つまり、ブランドの価値をつくるには、まず「長所を最大化する」ことが重要だということだ。見たままではなく、「見ないで見えたもの」のなかに、感情の絆を結ぶ要素がある。公園に行ったが、空の印象しかないなら、それがその人間の公園のオンリーワンということになる。

一方、写生が意味するものとは何か? それはマーケティングだ。写生では対象を客観的によく観て描く。それはさまざまなデータを集め分析し、何が求められているのか、どうしたら喜ばれるのか、目に見える、ある地点を目指していく。

その結果、長所を伸ばすというよりも、「顧客の声」という正解に合わせた商品をプランすることになってしまうのだ。そのやり方は、正解に近づけば近づくほど、どれも似たようなものになる。これはまさに飽和した商品とサービスの世界だ。

つまりは、ブランドは目を閉じて創る、マーケティングは目を見開いて企てる。アートでもビジネスでも、人の心を打つものをつくりたいなら、目を閉じて「創造」することだ。

ホンダは、天才技術者の本田宗一郎が新しい車を創る一方で、藤沢武夫という営業の参謀が戦略を練り、世界のホンダへとブランドを押し上げた。藤沢は本社とは別のビルに1室を借り、調度品に至るまで全て黒で統一し、その部屋にこもって経営戦略を練ったらしい。まさに、「目を閉じる部屋」だ。本社と別の場所に陣取り、「空気感」でさえ拒否している。

ビジネスでアートの感性が重要というのは、こうした「心眼」を鍛えることだと思う。アートもブランドも無形資産、つまりは見えない価値だ。それらを創造するなら、対象となるものの印象を捉え、心の目で見ることから始めるほうが良い。

文=高橋邦忠 構成=松崎美和子

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