ビジネス

2020.04.09

アートの「見えない価値」をマーケティングで最大化する方法

Westend61/Getty Images


「長所の最大化」がブランドの価値をつくる


さて、この30年近く、ブランドマーケティングは、モノが溢れて売れない時代の万能の処方箋のようにとらえられ、そのノウハウについては数えきれないぐらいの書籍が刊行されてきた。

そこでは、おおかた成功したブランドのパターンにこじつけるように「ストーリー」が語られてきたわけだが、結局のところ、どうやったら自前のブランド力を創造できるかについてはブラックボックスのままだ。

そもそも、「ブランド戦略」と言われるが、戦略は、状況に応じて変化するものであり、1つとして同じ条件や状況下がないように、成功までのそれをパターン化するのは不可能なのである。

では、どうすればいいのか。そんなときこそ、アートの出番だ。アートには、ブランディングのヒントが隠されている。それは、受け取る側の感情にどうアクセスするかを知ることであり、ブランドもアートも、受け手の心に「価値」を創造する「感情の絆」が鍵となる。

アートの送り手とは作家である。日本のアートシーンに「創造性」が欠如する傾向が多いことには、学校での美術の授業が影響していると聞いたことがある。そして、創造性の欠如を生み出す根源は「写生」にある。小学校低学年でも、例えば公園や動物園などでよくすることになる写生である。

対象をそのまま観察して、その通りに描いていく。場合によってはグループで同じものを描いて「誰が上手い」などを評価し合う。教師も、如何に実物通りに描かれているか、その「写実」の出来を褒めたりする。

本来、アートは、そこに描かれている最も印象的なポイントに「共感」することで好意を形成する。だからこそ、作品と鑑賞者の間に感情の絆が生まれる。たとえ同じ景色を観ても、個人の印象はそれぞれ異なるはずだ。

アートは、その自分の頭のなかを描く。すると、空がとんでもなく大きいと感じて描く子もいれば、足元の草1本を丹念に描く子もいるはずだ。

絵は写真ではない。葛飾北斎の富士山は、高さの比率は実際の倍くらいはあるが、誰も「下手」だとは言わない。実際、多くの人が、頭のなかでは、富士山はそのくらいの高さだと感じているからだ。つまり、作者は「印象の強さ」を描き、それに共感する人たちとの間に強い絆が生まれるのだ。

しかし、写生では、目の前に正解があるので、それに印象を近づけてしまう。だから、創造性を潰すのだ。
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文=高橋邦忠 構成=松崎美和子

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