「今こそニューディールに学べ」 著名キュレーターがアーティスト支援策を提言

ニューディール政策下、画家ジャクソン・ポロックもアーティスト雇用プログラムに参画していた (GettyImages)

新型コロナウイルス感染拡大防止策として、安倍晋三首相は4月1日、繰り返し使用可能な布マスクを全世帯に2枚ずつ配る方針を表明すると、落胆や疑問の声が噴出した。現金給付についてもささやかれていただけに、タイミングを逸したのだろう。

その2日後、一定水準まで所得が減少した世帯に対し、1世帯当たり30万円の現金給付策が発表されたが、給付対象が個人ではなく世帯である点など、政策の是非には議論の余地が残る。

欧米に目を向ければ、個人への積極的な現金支給策も目立つ。とりわけ、ドイツ政府がアーティストらに向けておこなう500億ユーロ(約6兆円)規模の支援策が話題だ。欧米で迅速かつ積極的にアーティスト支援策が議論されるのはなぜだろうか。その背景に注目したい。

ドイツ文化相「文化は良い時にのみ与えられる贅沢品ではない」


ドイツは3月23日、新型コロナウイルスによる経済的打撃を緩和するため、総額7500億ユーロ(約89兆7200億円)規模の財政パッケージを承認した。この7500億ユーロのうち、最大500億ユーロ(約6兆円)はアーティストや個人事業主に充てられることになっており、3カ月間は、最大9000ユーロ(約106万円)を助成金やローンとして受け取ることができる。

ドイツのモニカ・グリュッタース文化相は3月11日の声明のなかで、「文化は良い時にのみ与えられる贅沢品ではありません」と訴え、アーティストへの給付策は「単なる経済的な救済であるだけでなく、中止やキャンセルの影響を被っているわたしたちの文化を救うことでもあるのです」と主張した。

今回のドイツの支援策は、英国芸術評議会が24日に発表した1億6千万ポンド(約213億円)の支援と比較しても大規模なものとなったが、この「英断」には美術界を超えて広く称賛の声が送られた。グリュッタース文化相の「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要なのだ」という力強い声明は、コロナウイルスの影響に苦しむ世界の芸術関係者を勇気づけている。

メルケル首相
大規模な芸術支援策に乗り出したメルケル首相 (GettyImages)

イギリス政府に大規模なパブリック・アート計画の必要性を訴え


大規模な支援を求める声は、現代美術界からもでてきている。

イギリスの美術誌「ArtReview」が毎年、現代美術界でもっとも影響力のある人物100名のランキングを発表する「Power 100」。この番付において常に上位にランクインしてきたスイス人キュレーターのハンス・ウルリッヒ・オブリストは、数百万ポンド規模のパブリック・アート計画の必要性をイギリス政府に提言している。

パブリック・アートとは、美術館やギャラリーではなく広場などに設置される、公共のための芸術作品のこと。ロバート・インディアナの『LOVE』は、その世界的に有名な例のひとつだ。

英国紙ガーディアンによると、オブリストは、パブリック・アートの歴史をアメリカの大恐慌時代にまで遡り、今回必要とされている「プロジェクトは、フランクリン・D・ルーズベルトの公共事業プロジェクト(PWAP)および1930年代の大恐慌中に大統領が設立した雇用促進局(WPA)と同様の規模でおこなう必要がある」と述べている。ここで彼が言及しているのは、ルーズベルト政権下でおこなわれたニューディール政策だ。
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文=渡邊雄介

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