それでも私は東京エリアのロックダウンを主張したい。タイミングはどこか?

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もっと巨大なロックダウン、経済損失を回避するために


だから、オーバーシュートが起きる直前、あるいは起き始めた萌芽の時点で抜本的な作戦変更、プランBが必要だ。ロックダウンは、感染者を追いかけるのではなく、感染者がもう発生しなくなるような環境の最適化を図る、「感染の前を走る」やり方なのだ。

長い間、感染症のアウトブレイクと取っ組み合ってきたが、事態がどんどん悪くなる中で、「現状維持」というオプションをとって自然に事態が改善に転じた感染症アウトブレイクなど経験したことがない。通常は、仮説を立て直し、データを見直し、現状を批判的に吟味し、作戦を立て直して、「昨日までとは違うこと」をする。ステイタス・クオーはありえない選択肢なのである。

「ロックダウンは大きな経済的損失を伴う。だから、反対だ」という意見があるが、ではその根拠に基づいてロックダウンを回避した場合、先に待っているのはなんだろうか。

おそらくそれは、「もっと巨大なロックダウン」である。感染が手を付けられないくらいに拡大した状態でのロックダウン。それはより広範囲の、より厳密な、より長期間のロックダウンである。「ロックダウン」の代替案は「もっと巨大なロックダウン」であり、「もっと巨大な経済損失」である。どっちがましなプランであるかは、火を見るよりも明らかだ。腹腔鏡下手術で皮膚に傷がつくのが嫌だ、と拒んでいると、待っているのはより大きな病巣になってしまい、もっと大きな皮膚切開を伴う開腹手術なのだ。

もちろん、岩田が間違っている可能性もある。ロックダウンをしたあとすぐに感染者数がミラキュラスに減少に転じ(それはロックダウン「前」に始まった現象だからロックダウンの功績ではない)、どんどん感染者がいなくなっていくというシナリオだ。そんなスーパー楽観論を信じる気はないが、現実世界では、ときとして人間の予想を超えた事象だって起きる。では、そのときはどうすればよいのか。簡単である。ロックダウンを解除すれば良い。損失は最小限に抑えられる。そのときは、みんなで間違えた岩田を嗤ってくれればいい。市民の顔に笑顔が戻り、いいことづくしである。いや、本気の本気でそっちのシナリオの方を望みたい。

もっともましな解答は、今すぐのロックダウン


私は予測の専門家ではないから、予測はしない。するのは尤度を考慮して「ありそうなシナリオ」を可能性が高い順に全部並べておくことだけだ。そして、どのようなシナリオがやってきたときも妥当性の高い最適解を希求する。これは毎日患者を見ていてやっていることだ。ゲーム理論である。臨床行為とは日々予測不可能な患者の推移を「どのシナリオであっても対応できる」判断をするゲーム理論の運用である。我々はゲーム理論にかけては相当な修練を積んだプロなのだ。

ゲーム理論を運用すれば、将来どのようなシナリオがやってきたとしても、「もっともましな解答」はロックダウンである。しかも、今すぐのロックダウンである。繰り返すが、ロックダウンの運用は様々だ。が、形骸的で実効性の低い「ロックダウンしたふり」ではだめだ。形式には興味はない。必要なのは結果を出すことだけだ。

もちろん、もっとベターな解があるのであれば、ぜひ拝聴したい。繰り返すが岩田は「ロックダウン派」ではない。ベターな解の提示によるアウフヘーベンは望むところである。が、「ロックダウンにはこんな欠点が」という「出来ない理由」をいくら羅列されても、それはなにもよいものはもたらさないのである(もっと悪いものをもたらしたとしても)。そういう意見には今は耳を傾けるべきときではないのだ。

文=岩田健太郎(自身のブログより)

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