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生活圏は「新しい適応策を生むための視座」


──たしかに、人口減少、気候変動、自然災害といった大きな社会課題と向き合う時、ひとつのセクター内で解決できることはそんなにありません。

その通りですね。異なる立場の人との重なり合いの中からこそ、新しい発想って生まれていくのだと思います。そのためのひとつの視座が「生活圏」だと思います。それは、人が生きていくための環境を丸ごと捉えようとする態度です。そして、このレポートに取り上げた都市に共通している点です。それらの都市を総称して「CITY BY ALL」とこのレポートでは呼んでいます。「CITY」から「CITY BY ALL」へ。「スマートシティ」という言葉が僕自身なにかしっくりこないなとずっと感じていて。ともに生きる場所をつくる社会のあり方そのものに光を当てたいと思いました。

──その都市はどのように見つけ出すのでしょうか?

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兵庫県豊岡市・城崎温泉街(『CITY BY ALL』より)

事前のリサーチも少しはするし、そこからどこか心に引っかかるものに出会うこともあるのですが、新しい試みに挑戦している、どこか可能性を感じる町というのは、やはり現場を訪ねて、そこで人に会ったり、話をしたり、風景の中に立って見たり感じたりすることが非常に大きいのも確かです。

例えば、レポートでは、兵庫県豊岡市のことについて書いています。「小さな世界都市」を標榜して、文化や環境、教育政策に非常に力を入れている人口8万人ほどの町です。ヨーロッパの中規模都市のように、文化的な個性をしっかりもって世界と台頭に向き合えるローカリティを育てようとしています。

もちろん、行政や市民の中に、こうしたヴィジョンを形にしようとする人の存在があるのだと思うのですが、その背景には、この街がもともと温泉街(城崎温泉)で、過去100年以上、文人や旅人を受け入れながら、つまりは異質性、多様性を包摂しながら、地域の魅力や経済を育ててきた「地域文化」が根強くある。それが現在の人々の振る舞いや協働を支えている。情報では見聞きしていても、そのことは町の中に入っていかないと実感できないものだと思うのです。

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豊岡市 城崎国際アートセンター(『CITY BY ALL』より)

実際にその場所に身を置き、見えてくる目の前の「風景」をフラットに眺めてみる。でも、それは目の前の「風景」を見ながら、同時に見えていない存在を想像しようとすることだと思います。今後、データの利活用は今まで以上に進めなくてはならないと思いますが、そうした見えない風景や見えない存在を想像しようとする力がとても大切になると思います。

聞き手=石井節子

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