ラマポーザ大統領の緊急事態宣言が発表されたのは3月14日の土曜日だったが、翌々日の月曜日の朝、ケープタウン市内の中心部には、それまでとは少し違う雰囲気が漂っていた。
通常ノマドワーカーなどが集まるカフェには、いつもの賑わいはなかった。ブティック型の書店に立ち寄ったところ、オーナーと従業員が今後の勤務体系の方針について話し合いをしていた。
アパルトヘイト終焉から四半世紀経過した南アフリカにおいて、残念ながら今でも珍しくないことだが、事業オーナーは白人系で従業員は黒人系という組織構造。オーナーはおそらく市内在住か自家用車で通勤できる状況にあると予測できる。一方黒人スタッフは、市外の、おそらくタウンシップ(アパルトヘイト時代の黒人居住区)在住で、そこから乗り合いバスで通勤している様子。オーナーは、混雑した乗り合いバスからの感染防止対策として、時差通勤などを提案していた。
ロックダウンの前日、市内の一部のスーパーでは、一度に入店する客数を制限。床には距離を保つためのラインも示されていた
ロックダウンにより格差社会が顕在化
ウイルスは無差別に人に危害を与えるが、感染予防の対策においての選択肢の有無という意味においては、当然、恵まれた層とそうでない層の間に格差が生じている。米国の報道などでも指摘されているが、リモートワークに対応できるのは一部の恵まれた層なのだ。
南アフリカでは、ロックダウンにより、医療サービスへのアクセスと、食料品や医薬品や衛生用品の買い物以外の外出は禁止されている。こうした店舗および銀行などの主要サービス以外は、レストランやショップなどのすべての対人ビジネスは営業停止となっている。
ロックダウン2日目の市内。郊外のスーパーではマスク着用の客も増えた。現在、酒類の販売は一切禁止されている
南アフリカでも、恵まれた層は、ネットフリックスやキンドルで有料コンテンツを手に入れたり、アクティビティとしての贅沢な自炊を楽しんだり、在宅時間を快適に過ごすための手段がある。
ケープタウンなどでは、高所得者層は、そもそも市内中心部から離れたワインカントリーに、ゆったりとした住居を構えていることも少なくない。こうした層にとっての自宅待機やソーシャル・ディスタンシングは、容易に耐えうるものだ。
一方、居住空間が密集したタウンシップで、ソーシャル・ディスタシングを徹底させられることがいかに難しいことかは、たやすく想像がつく。現に、ヨハネスブルグ近郊のタウンシップでは、ソーシャル・ディスタンシングの徹底のために、軍や警察が武力行使に踏み切っている。こうした状況は、ナイジェリアのラゴスやケニアのナイロビなど、他のアフリカの都市の密集地域でも起こりうることだ。
新型コロナウイルスのパンデミックで、いま世界はまさに共通課題に向き合っている。アフリカ各国に限らず、日本にも存在する格差はすぐには解消できない。個人としてまずできることは、自分とは違う状況にある人たちについて想像力を働かせ、エンパシーを持った言動に努めることかもしれない。
連載:旅から読み解く「グローバルビジネスの矛盾と闘争」
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