あらゆる業種が危機対応を迫られるなか、企業内のキープレーヤーとなるのがCIOだ。カリフォルニア大学アーバイン校のデジタルトランスフォーメーションセンターのVijay Gurbaxaniは「企業社会にテクノロジーが浸透した今、緊急時におけるCIOの責任は非常に大きい」と話す。
CIOにとって最重要課題となるのは、オフィスが閉鎖を迫られた場合、従業員が一斉にリモートワークを開始できる環境を整えておくことだ。オートデスクのKotaは今回、「全社員が社内ネットワークへ遠隔でアクセスできる環境を整備した」と話す。同社では、従業員らが短時間でセットアップを行える専用ツールを独自に開発したという。
廃棄物の管理サービスを提供するWaste ManagementのCIOのNikolaj Sjoqvistは、VPNの接続ライセンス数を短期間で増加させ、回線キャパシティーを引き上げたという。さらにクラウドベースのアプリを新規で導入するなどの施策で、業務効率を下げないための対策を行った。
感染拡大への対処を通じ、どこまでリモートワークを導入可能であるかを検討した企業も多い。セキュリティ企業のフォアスカウト・テクノロジーズCIO のJulie Cullivanは、様々な部署にヒアリングを行って体制を整えた。人事部門の責任者も兼任する彼は、従業員の健康と安全を第一に考えつつ、やむを得ず出社する社員の安全を維持するための施策も検討したという。
さらに、リモートワークを拡大する上で、CIOが注意しなければならないのがセキュリティの問題だ。ヘルスケア関連企業のスクリップス・ヘルスCIOのDrex DeFordは「通常とは異なる状況下では、セキュリティが緩くなり外部からの侵入リスクが高まる懸念がある」と指摘した。
オートデスクのKotaは、社内ネットワークへのアクセスに新たに2要素認証を導入するなどの施策で、システムの防御性を高めたという。
顧客との対話に有用なテクノロジー
一方で、リモートワークにおいて、普段よりも重要になるのが、オンラインでの従業員同士の意思疎通を円滑に保つことだ。多くの企業がビデオ会議にはZoomやWebexなどを導入し、チーム内のコミュニケーションにはSlackやマイクロソフトのTeamsなどを用いている。
人々の外出がままらない状況下で、外部の顧客との対話に威力を発揮するテクノロジーもある。医療業界では遠隔治療システムが導入される一方、不動産業界ではAR(拡張現実)やVR(仮想現実)を駆使した内覧サービスも一般化しつつある。さらに、カスタマーサービスの現場では、チャットボットの活用がさらに広がっていく見通しだ。
企業のCIOたちは、緊急対応に必要なテクノロジーの多くが、既に様々な業種で導入済みであることを把握しておくべきだ。今後の課題は、それらの技術をいかに効果的に導入していくかになる。さらに、従業員が感染拡大に対処するために必要な情報を、スムーズに入手できる環境を整えておく必要もある。