コロンビア大学メイルマン公衆衛生大学院、感染症・免疫学センターのウイルス学者、アンジェラ・L・ラスムセン(Angela L. Rasmussen)博士は、「食事を介して新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染する可能性を示すエビデンスはない。可能性があるとしても、リスクは極めて低いだろう」と話す。さらに博士は、ヒトコロナウイルス(ヒトに対して病原性を示すコロナウイルスのグループ)で、食物を介して感染しうるものは聞いたことがないと述べる。
現在、新型コロナウイルスの感染予防策として推奨されているのは、頻繁に手を洗い、手で顔を触らないようして、ウイルスが気道に到達するリスクを低減させることだ。しかしこのような対策は、現在のような新型コロナウイルスのパンデミック下でなくとも、適切な訓練を受けた料理人であれば普段から実践していることだ。また、料理人や飲食店は、利用客を感染から守るために追加の策も講じている。
しかし、そうした予防策を講じていてもなお、食品中に新型コロナウイルスが混入することがあったとして、そこから感染する可能性はあるのだろうか。食物が調理され、人の口に入るまでの過程には、その可能性を抑えられそうなポイントがいくつかある。それを一つひとつ見ていこう。
第一に、食品中にウイルスが存在しても、調理の熱で不活性化するのだろうか。
「熱を加えれば、ほぼ確実にウイルスは不活性化する。ただし私の知る限り、どれくらいの温度で、どれくらいの時間をかけて加熱すれば不活性化するのかを報告した研究はまだない」とラスムセン博士は言う。
ピザや炒め物といった人気のデリバリー食品のほとんどはごく高温で調理されているが、冷たい食品についてはどうだろうか。
「これについてはデータがない。高温の食品のほうが、温度によっては感染性ウイルスの存在する可能性は低くなるが、そもそもいかなる食品も、摂取することで新型コロナウイルスの感染を引き起こすリスクは極めて低い。食品は気道に取り込まれないし、ウイルスが存在したとしても、おそらく胃の中で不活性化される」とラスムセン博士は話す。
気持ちのいい話ではないが、家庭や飲食店でどれだけ十分に調理された食品であっても、健康に害を及ぼすおそれのある病原体が含まれる可能性はある。しかし、それで病気になることは滅多にない。われわれの体は、病原体に対する防衛策のひとつとして、胃酸を備えているからだ。
「胃のなかのような、酸性度の高い、pHの低い環境は、エンベロープ(一部のウイルス粒子がもつ膜)を溶かす。また、同じくウイルス粒子の主な構成要素であるウイルスタンパク質とRNAを分解する」とラスムセン博士は言う。