しかし、目下の多くの物事と同様に、テイクアウト食品の利用も、まったくリスクがないわけではない。それでも、米疾病予防管理センター(CDC)が推奨するガイドラインに従って手を洗い、テイクアウト容器の外包装を消毒することで、リスクをさらに低減することが可能だ。
とはいえ、一部のウイルスが食物を介して感染し、感染症を引き起こす場合があるのは確かだ。ノロウイルスの集団感染によってレストランやホテル、またとりわけクルーズ船が閉鎖される事例はよく知られている。新型コロナウイルスもやはりクルーズ船内で感染が拡大したが、今のところそれが食物を介して広がったというエビデンスはない。それなら、新型コロナウイルスとノロウイルスはどこが違うのだろうか。
テキサス州にあるベイラー医科大学で、消化管ウイルスを研究するメアリー・K・エステス(Mary K. Estes)教授は、「新型コロナウイルスとノロウイルスは、表面の構成要素が異なる別々のウイルスだ。新型コロナウイルスのカプシド(タンパク質の殻)は、脂質のエンベロープに囲まれていて、これは石鹸と水で比較的簡単に溶解させることができる」と述べる。いっぽう、「ノロウイルスのカプシドは、脂質のエンベロープをもたない」と同教授は指摘する。これは、石鹸や水で容易に不活性化できないことを意味する。
ノロウイルスは主に、糞便から口への経路で感染すると考えられている。新型コロナウイルスも、一部で感染者の糞便から検出された例があるため、やはりこれはリスクになるのだろうか。
「全員ではないが、一部の患者の排泄物から、感染性ウイルスとウイルスRNAが検出されている。それはつまり、糞便から感染する可能性があることを意味する。ただし注目すべきは、実際に糞便から感染したというエビデンスはなく、ましてや重要な感染原因ではないという点だ」とラスムセン博士は言う。
プロの料理人などの調理従事者は、食品安全に関して高度な訓練を受けているため、一般人に比べて手指の衛生を徹底しているはずだ。また、それに加えて、ほかにもウイルス間で違いがあることから、新型コロナウイルスは、ノロウイルスと比べてはるかに食物経由の感染リスクが低いと言えるだろう。
「ノロウイルスは、(新型コロナウイルスに比べて)はるかに安定したウイルスであり、環境中や食物中でかなり長期間にわたって物体表面上に残存する。しかしどちらのウイルスも、食品に火を通すことで不活性化されるため、十分に火を通した高温の食物を食べるのが安全だ」とエステス教授は言う。
「糞便からの感染リスクはもともと低いと思われるが、手指の衛生と飛沫対策を徹底することで、さらに低減できる」とラスムセン博士は述べている。