「社会的距離」は感染拡大に有効か スペイン風邪から学べること

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スペイン風邪(インフルエンザ)が流行し、パンデミックになった1918〜19年のデータから分かるのは、社会的距離の確保とその他の措置を徹底した都市は、それらを行わなかった都市と比べて最大で50%、感染の拡大を遅らせ、致死率を低く抑えることができたということだ。

世界人口のほぼ3分の1が感染し、死者数がおよそ5000万人に上ったとされるこのパンデミックに対する米国の各都市の取り組みについて調べた3件の論文を見直したレビュー論文は、結論としてそのように述べている。

ロヨラ大学シカゴ校ストリッチ医学校のステファン・パンブキアン教授(外科病理学)は、「隔離措置の基準が厳格であるほど、死亡率は低くなる」と指摘する。パンブキアン教授が主導したこの研究レビューは、細胞レベルで感染症の研究を行う同大学の細胞学研究所の人材配置と安全性に関する基準を定めるために行ったものだ。

3件の論文に示されたデータを分析したところ、初期に広範囲において対策(集会の禁止、学校や宗教施設の閉鎖、衛生習慣の強化など)を講じた都市では、同様の行動を取らなかった都市と比べ、感染率と致死率が30〜50%低くなっていた。

スペイン風邪のパンデミックに対応するため、米国で最も厳しい措置を講じたのはサンフランシスコ、セントルイス、ミルウォーキー、カンザスシティなど。これらの都市は、感染の拡大と死亡率を最も大幅に抑制することができた。また、感染による死者数がピークに達する時期を最も遅らせることができた。そして、それによって医療従事者と病院にかかる負荷を軽減することができた。

一方、住民に通常どおりの活動の継続を認めていた都市、特に(戦時国債の購入を促すためのリバティ・ローン・パレードが行われた)フィラデルフィアなどでは、病院の対応能力を上回る感染者と、多数の死者を出した。

当時と現在の環境は異なるが─


スペイン風邪のパンデミックによる米国内の死者数は、推定67万5000人。だが、これは現在とまったく異なる環境において起きたことだ。パンブキアン教授は、当時の米国人は多くが「貧しく、栄養状態も衛生状態も悪く、世帯とコミュニティーのどちらのレベルでも人が密集し、認識不足から市民も政策決定者らも準備ができておらず、医療も看護も十分には提供されていなかった」と述べている。

これは第一次世界大戦中に起きたことであり、現在のようにインターネットやソーシャルメディアが普及していたわけではなく、情報が伝わるペースははるかに遅かった。国から国にニュースが伝わるのに長い時間がかかったことは言うまでもなく、米国の東海岸で感染が拡大していることも、西海岸のすべての人にすぐ伝わるわけではなかった。

だが、それでもウイルスの感染拡大を抑えるための原則は、当時も現在も同じだ。教授によれば、「(社会的距離の確保という)この措置は実際に役に立つのかという懐疑論はある。それでもこの措置が違いを生み出したことは明らかだ」。

致死率はスペイン風邪の方が、COVID-19よりも何倍も高かった。近代史において最悪の被害を出したパンデミックに何が効果的であったかということから、私たちは直接、危機管理の方法を学ぶことができるはずだ。

パンブキアン教授らの論文は、「Journal of the American Society of Cytopathology」に掲載されている。

編集=木内涼子

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