Close RECOMMEND

フォーブス ジャパン ウェブ編集部


ユーザーインというワンワードで全員がつながっている


このプレゼン会議は40年以上の歴史がある。創業者である現会長の大山健太郎が始め、当初は新商品の意図を説明する趣旨の会議で、それが年を追うごとに進化。1992年に仙台角田工場(取材現場)が作られた際に、階段教室の会議室を作り、今のスタイルになっていく。

「私は2004年から見ていますが、基本的にはずっと変わっていません。新商品の話はもちろん、新規事業、地元の自治体との協力などの総務案件や、販促・広報の戦略にいたるまで、このプレゼン会議で採り上げられます」

インタビューに答える大山社長
1日をかけたプレゼンが終わっても疲れた様子を見せない大山社長。

30人超の部門責任者陣は内容によっては中座もあるが、大山社長以下首脳陣が月曜のまる1日、ぶっ通しで行われる会議に対応するのはタフ以外なにものでもない。インタビューはひと通りプレゼン会議が終了し、日も暮れかかる夕方過ぎに行われた。

「もちろん疲れはしますが、新商品の話を聞くのはわくわくしますし、毎週楽しみなんですよ」

プレゼン会議についての質問をぶつけていくと、会議中の厳しい表情から、次第に柔和な表情で確信を突く普段の「晃弘節」が帰ってくる。

「現場では担当者が意見をぶつけてきます。お世辞など通用しない場ですから、こちらも厳しくやりとりします。毎週の戦いの果てには、当然、“失敗のハンコ”も生まれます。その場合、四半期に一度、新商品の成果を確認する際に、ダメだったものはなぜそうなったのかを多面的に掘り下げて議論します。会議の現場でなぜなのかを担当者(開発やマーケ)に問うことはしても、彼らの評価が著しく下がることはないんです。この会議のスタイルが、全員で決めて私がハンコを押しているからです。つまりトップに責任があるんです。だから発表者はいつだって堂々とアイデアをぶつけることができるんです」

商品にかかわる全関係者が同時に連携して進める「伴走方式」が同社の特徴だが、売れなかった商品は、ある1部門のせいではないのだ。連携部門の総意が代表者によってプレゼンされ、それを部門責任者陣が受け入れるのだから、恐れず積極的な提案につながると言える。

そこで感じたのが、社員全員が同方向を向いている印象だ。会議のなかで多用された「ユーザーイン」という言葉の意味が重要になってくる。

「マーケ用語のマーケットイン(顧客ニーズを優先し提供すること)の、同社オリジナル版です。マーケットとは広義で、業種業態で考え方が違ってきます。また、われわれは多種多様な商品を作っています。消費者のために作る商品は、より厳密にフォーカスしてユーザーインであるべきだという意味です」

全部署がかかわる伴走方式の体制がプレゼン会議の布陣に現れた。大阪の開発部門のフォローも、話者である副事業部長の星も、発する言葉のはしばしに消費者を意識した単語があった。

「実際にその商品がユーザーにとってメリットになるのかユーザーインを考え、そして対価(利益)をいただける、それを理解してくれているからこそ、多くの人気商品を生み出せているのです」

変えることと変えないこと


アイリスオーヤマは、もうひとつ「メーカーベンダー」という強みを持っている。

「われわれはサプライチェーンを短くして、ユーザーさんとの距離を縮めることで成長してきた会社です。届けることもユーザーのためですから。これは海外でも十分戦えるもので、すでにアジア、北米中心に多くの工場が存在し、国内での少子高齢化などの市場の変化も大きなチャンスと捉えていまして、強い商品力とメーカーベンダー方式という、言わばユーザーイン経営を強く意識しています」

角田工場内の様子
製造、物流、そして頭脳がそろう角田工場はアイリスオーヤマにとって工場という名のアジト的存在だ。

商品数が増える、市場が変わる、時代や価値観が変わる、これからの経営は決して楽にはいかないだろう。大山は自信を持って答えてくれた。

「このプレゼン会議自体も変化してくかもしれません。議論する件数が増え、1日でこなせなくなる可能性もあります。会社の事業規模が倍になったら?おのずと変化することになるでしょう。ただ、基本のキは変えたくない。要は決裁者が一堂に会して一気に議論をする、これだけは変えない」

“これだけは変えない”。ユーザーインの基本であるこの仕組みは変えないのだ。柔和な大山の目が、最後にするどく光る瞬間だった。

 

文=坂元耕二 写真=今 祥雄

PICK UP

あなたにおすすめ