「治す」がゴールじゃない医療もある。患者が幸せになるテクノロジーの使い方

アイリス株式会社代表取締役社長・医師の沖山翔氏


どの時代に生まれた人も、自分が生きている時代こそが激動の時代だ、と思っているかもしれません。しかし、人類が誕生して以来、1万年間のたった0.5%であるこの50年で人口が倍以上になっています。少なくとも人口爆発の観点からは、現代こそが変革の時代だと言えるでしょう。

医療 ABEJA

日本人の寿命も右肩上がりです。平均寿命は毎年0.3歳ずつ増えているので、今30代の人は100歳まで生きると言われる時代です。寿命が伸び、義足の進化しかり、人体とマシンの融合の先では今まで不可能と思われていたこと、例えば100メートル走の記録も9秒はおろか8秒を切るようになるかもしれません。

発展を目指すことが人類にとって幸せか?


そんな時代に、どのようにして医療にテクノロジーを導入するべきなのでしょうか? 我々人類はどこまで発展していくべきなのでしょうか? 際限なく発展を目指すのが人類の幸福に繋がるのでしょうか?

答えがない問題ですが、この問題に対する1つのアプローチとして、「足るを知る」こそが人類の幸福の秘訣だという考え方があります。

医療 ABEJA

そもそも我々は未来を選べるのでしょうか? 私はできないのではないかと思っています。未来は決まっているという運命論のような考え方では決してなくて、それがテクノロジーの本質だと思うからです。

あらゆる技術はニュートラルで、活用のさじ加減次第でいいものにもなれば悪いものにもなります。しかし、放射線技術や遺伝子編集など、どんな技術であっても、世の中には必要としている人がいます。

そうしたニーズがある限り、誰かが隠れて技術を開発して、発展させてしまいます。技術発展は不可避、つまり未来を選択することは不可能だとすれば、人類の幸福のために、別の解決策があると思うのです。

人を癒やすものすべてを「医療」と呼んでいい


医療の目的は、時代とともに変化してきました。過去には、まず患者の病気を治すことや延命することが正しいとされていた時代がありました。

そこからQOL(Quality of life)という概念が生まれ、病気を治せなくても痛みが抑えられれば医学的な価値はあるとされるようになりました。

さらに、病気を治せなくても、痛みを取れなくても、不安を解消するだけでも価値はあるという考え方も出てきています。これで終わりではなくて、きっとまだ私たちが言語化できていないけれど、心の中にある未来のQOLのような概念がこれからどんどん生まれてくるでしょう。

そして最終的には、人を癒やすものすべてを医療と呼んでいいという考え方に行き着くし、実際に少しずつそう変化していると感じています。
次ページ > AIで、悩みや不安を取り除いてくれる医療

取材・文=山下久猛 編集=川崎絵美

ForbesBrandVoice

人気記事