全米で「フードスタンプ」縮小案 教育現場が大反対の理由

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シアトルのフォックス系テレビ局は、今回の規模縮小で、300万人がフードスタンプを受給できなくなって、これにより50万人の子供たちがフリーランチを食べられなくなり、おそらく昼食を抜くことになるだろうと報じている。

独立系経済シンクタンクのミルケン・インスティチュートによると、少年期に飢餓を抱えたり、栄養が十分に摂れない食生活をしたり、それらを原因とする健康被害が、成人したときの48兆円分の年間医療費コストに直接つながっていると分析しており、生産性減退による経済ロスは124兆円にものぼると試算している。

世界に誇るべき日本の給食制度


アメリカの学校のカフェテリアは、日本のそれとは比較にならないほどお粗末だ。実は2010年にオバマ大統領のミッシェル夫人が音頭を取り、「脱空腹法」なるものを制定し、せめて飢餓をなくし、また学校食の質を上げようと法制化した。

公立学校でのカフェテリアで、栄養価のよい食事支給を試みたが、とくに塩分の低減を目標としたため、高塩分のジャンクフードに慣れすぎていたり、あるいは自宅での贅沢食があたりまえになっていたりした子供たちが敬遠し、残飯の山を築いてしまうことになった。このことも、皮肉だがフードスタンプ縮小化議論を後押ししてしまっている。

日本は小泉政権の2005年に食育基本法なるものを成立させている。ウィキペディアによれば、「食育」という言葉は、明治時代の医師によってつくられたもので、さまざまな経験を通じて、食に関する知識と食を選択する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てることを意味する造語であるという。

ふりかえって、食育政策を継続している日本の給食は、あらためてありがたいと思う。今日、青少年の食育は、あたりまえになってしまって、選挙のマニュフェストにいちいちあがらないのだが、文部科学省だけでなく、農林水産省も厚生労働省も関わり、省を横断した国の中心政策の1つだ。

フードスタンプを縮小し、不正受給や食品ロスを回避するのであれば、それで浮いたお金を使って、せめて学校食を抜本的に見直すべきだと思う。今日、ユーチューブで「学校食」を英語で検索すると、日本の給食が英語で紹介されている動画がいくらでも見られる。

日本の給食制度こそ、世界に誇る仕組みの1つだと思う。水道インフラと同様、世界へと啓蒙すべき義務が日本人にはないだろうか? われわれの健康は、幼少期の給食から始まっているにちがいないので。

連載:ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信
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文=長野慶太

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