全米で「フードスタンプ」縮小案 教育現場が大反対の理由

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アメリカの貧困家庭を支える生活保護の主要な柱として、フードスタンプという80年来の歴史がある仕組みがある。店でパンや果物を買うときに、国から支給されたお金で買い物をすることができるものだ。金券の形で支給されるのだが、地域によっては、プリペイドカード方式のところもある。

いま、国の財政赤字対策のために、ホワイトハウスがフードスタンププログラムの大幅な縮小を検討しており、教育の現場から猛烈に反対の声が挙がっている。

規模縮小案は、フードスタンプの不正受給者が後を絶たず、根絶が難しいことから考えられた。米紙USA Todayによれば、プール付きの大邸宅に住み、地中海の別荘と自宅を往き来するビジネスマンが、2年間にわたって毎月300ドルのフードスタンプを得ていたことがわかり、逮捕された。

これは極端としても、類似のケースはたくさんある。例えば、夫が大金持ちでも、内縁の妻の収入が低いことで受給資格を得るなどの不正受給は、チェックが難しい。

現在、4000万人のアメリカ人がフードスタンプを受給しており、これに政府は6兆円の予算を割いている。3人家族であれば、世帯年収が約270万円を割り込むと受給資格が生じるが、この基準は各州の経済実態に合わせて上振れする。

例えば、シアトルのあるワシントン州では、倍近くに跳ね上がっており、世帯年収が420万円を割り込めば受給資格が生まれる。とはいえ、西海岸の都市部の家賃の高騰は著しく、年収420万ではとても生活できないのが実態だ。

アメリカ人の2人に1人がフードスタンプを


CBSニュースによれば、アメリカ人の2人のうち1人は、生涯に1度はフードスタンプを受けた経験があるということで、国民になじみのあるプログラムなのだが、現在の平均でも月に約1万3000円の支給ということで、けっして大きな金額ではない。そしてあくまで食材の購入に充てられ、レストランなどの外食では使えないことになっている。

全米で2500万もの小売店がフードスタンプを受け付けており、これらのほとんどが小規模の個人商店であり、このプログラムの規模が縮小されると、これらの中小店舗の存続も難しくなるとも、同ニュースは伝えている。

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さらに、問題があるのは、フードスタンプを受けている家庭は、学校のカフェテリアでは基本的に無料でランチを提供されているという実態に対しての、直接的な影響だ。一般家庭の生徒が料金を払ってカフェテリアで食事をするのに対して、フードスタンプ受給家庭の生徒はフリーパスになる。実は多くの貧困家庭の子供たちは学校の無料のランチでかろうじて栄養を保っているのだ。

フードスタンププログラムが縮小され、対象者を絞るようになると、このフリーパスを取り上げられる生徒が相当に発生し、ランチそのものをあきらめねばならない場面が大量に想定されている。教育現場からするとこのフリーランチが貧困家庭の生徒の生命線だと思っているので猛反対しているわけだ。
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文=長野慶太

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