マレーシアの現状と対応に学ぶ「密」の脅威 モスクで新型コロナに集団感染

集団クラスターが発生したモスクでの礼拝参加者 新型コロナウィルスの検査を仮設テント内で受ける/礼拝参加者から提供


「大規模礼拝のクラスターを見ると、711人の感染者が彼らの家族を“第1世代”として感染させている。更に、それぞれの家族のメンバーが彼らの近隣の人々に感染させ、そしてそこからさらに、その人々の友人へ、と拡散させている。我々は、この感染拡大を“5世代”まで確認している。各感染者個人が、別の個人へ、さらにまた別の個人へと、合わせて“5世代”を超えて感染が次々に拡大されているのだ」

更に、アブドラ保健局長は、集団感染を起因とする爆発的拡散が起こると、いかに調査が難航するかを指摘する。

「この礼拝出席者の濃厚接触者をいかに特定していくか、しっかり決めていかねばならないだろう。まずは、家族のメンバー、次に友人たち──この調査は非常に複雑で、且つ時間を要することになるだろう」


集団クラスターが発生したクアラルンプールのモスク 感染者の急速な拡大に伴い、医師や警察による懸命な追跡調査が行われている/マレーシア保健省局長DG Hisham氏のフェイスブックページより

実は、マレーシアではこの集団感染による大規模な感染拡散に早くから危機意識を持ち、政府が警察への協力を依頼。ロイター通信によると、警察の犯罪捜査班が、モスクでの礼拝参加者からどのように拡散が広がっていったか、まだ検査を受けていない個人の特定や追跡などを急ピッチで進めているという。調査が難航している背景には、礼拝参加者の中に、仮に陽性反応が出た場合、社会から言われのない差別を受けるのではないか、といった後ろめたい懸念も存在していると言われている。

日本では、冒頭に挙げた、障害者施設や病院、大学などにおける集団感染のほかに、「夜の街クラスター」なるものも指摘され始めている。殊に、クラブや風俗店などに関しては、検査に臨むことに躊躇する、或いは仮に検査で陽性が出ても自身の行動範囲や接触機会を詳細に述べることがどれほど期待できるか、これも未知数だ。

ちなみに、この集団感染をいち早く察知したマレーシア政府は、患者数が急増し始めたわずか数日後の夜に緊急会見を開き、「事実上の国境封鎖」と「活動制限令」を2日後の3月18日から即座に実施すると宣言した。その時点で、国民の間ではまだ新型コロナウィルスへの危機感がそれほど高まっていない状況であったなか、アジア初となった極めて厳しい宣言に一気に緊張感が増す形となった。現在は警察だけではなく、軍隊やドローンも出動する厳格な警備が敷かれている。これは、これ以上の集団感染、それに伴う連鎖的な感染拡散を確実に防ぎたいという強い政府の意向の表れである。
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文・写真=海野麻実

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