会食と乾杯、文化を育む「いただきます」という言葉

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なぜ、僕らは「いただきます」を言うのでしょうか? 最近は、お店でも給食でも、お金を払っているのだから「いただきます」を言う必要はないと言う人がいるなど考え方が多様化しているようですが、本来「いただきます」には、食事に携わってくれた人々への感謝の意が込められています。

食事を作ってくれた人、サービスをしてくれた人、また野菜や果物を育ててくれた生産者、魚を獲ってくれた漁師さんなど、その食事に関わる人々へ感謝を表して、食事を始める前に「いただきます」を言うのです。それは、食材そのものへもおよびます。魚や肉などの動物はもちろんのこと、野菜や果物など、人間が生きるために犠牲となった他の生命への感謝です。



僕がメンターとして慕うサグラダ・ファミリアの外尾悦郎芸術工房監督の言葉に、「人は愛情がなければ表面だけ見てしまいます」というものがあります。「いただきます」という言葉はまさに、目の前にある食事という表面だけでなく、作ってくれた人、育んでくれた自然など、目に見えない物を思う「情」を豊かにする言葉ではないでしょうか。

食事のたびに見えないものを思い、その奥にあるものを想像し、感じ取ることで、文化が育まれていく。少し大袈裟かもしれませんが、日本という国を育ててきたのは、この「いただきます」という言葉かもしれません。

こう偉そうに書いていながら僕自身も言い忘れてしまうことがありますが、新型コロナの影響で自らの命、生活により目が行くようになったいま、改めて、そんな気持ちで食事をいただけたらと思います。

連載:喰い改めよ!!
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文=松嶋啓介

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