アメリカのドナルド・トランプ大統領は2020年3月24日、イースター(復活祭)の4月12日までには経済活動を再開させたいと述べた。ダウ・ジョーンズ平均株価を気にしているのか、あるいは大統領に再選されるか、不安なのかもしれない。その両方が気がかりだという可能性もある。
しかし、なぜイースターなのだろうか。そのころはちょうど、ニューヨーク州の新型コロナウイルス感染がピークを迎えると見られている時期だ。
「(経済活動を再開するには)素晴らしい時期だと思った。─中略─ 素晴らしい予定だ。素晴らしい日になる」。トランプは2020年3月24日、記者会見でそう述べた。
しかし、米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)所長で免疫学者のアンソニー・ファウチ(Anthony Fauci)博士はほぼ間髪を入れず、トランプのその発言を却下。そして、どう考えても含みのある言い方で、再開予定については「柔軟性」を持たせるべきだと述べた。
実際には、イースターに経済活動を再開させるという考えはあまりにも非現実的であり、妄想と紙一重だ。
しかし、もう手遅れだ。トランプは迂闊にも、公衆衛生の課題としてのみ扱うべきものを、政治的な問題に変えてしまった。公衆衛生に関する見通しを判断すべきは医療専門家だ。エコノミストでもなければ、ましてや政治家でもない。
ひときわ目を引いたのは、テキサス州副知事ダニエル・パトリック(Daniel Patrick)が、新型コロナウイルスによる重症化リスクが最も高いとされる高齢の祖父母世代は、経済のためなら進んで命をなげうつだろうと述べたことだ。
問題は、そうした誤ったメッセージを広めることで、トランプやその取り巻きがウイルス拡散をさらにエスカレートさせてしまうことだ。トランプ政権は、すでに広く批判にさらされている。同政権がパンデミックが与えうる影響をかなり過小評価した結果、アメリカの医療関係者が完全に無防備な状態に置かれてしまったからだ。
状況を甘く見たことで、トランプは、自らが何よりも望んでいるであろう「アメリカ経済活動の再開」を、自ら先延ばししている状況だ。
隔離政策の第一弾が十分な効果を発揮せず、ウイルス拡散が減速しなければ、封鎖期間をいっそう延期せざるを得なくなり、経済はさらなる不況へと陥っていくことを、世界の共通体験と医学的な勧告は示唆している。
セントルイス連邦準備銀行の総裁ジェームズ・ブラード(James Bullard)は、経済は第2四半期に半分ほどに縮小したあと、年末までに盛り返すが、失業率は30%かそれ以上に急上昇する可能性があると予測する。
1週間のあいだに申請された失業保険の初請求件数は、まさに恐るべき兆候となっている。2020年3月21日までの1週間における件数は、過去最大の328万件に急増した。
連邦政府が最近行なった金融市場支援と大型の財政刺激策が、最悪のダメージにならないよう歯止めをかけるかもしれない。とはいえ、封鎖に踏み切る都市が増えるなか、それだけでは不十分であることは確実だ。国民の信頼を取り戻し、通常の経済活動に戻ることは難しいだろう。
早すぎる営業再開であれ、あるいは、社会的距離(ソーシャル・ディスタンス)政策とは矛盾したメッセージをホワイトハウスが発することであれ、すべてが逆効果であり、「経済活動再開の見通し」を邪魔することになる。
2020年3月26日(現地時間)、アメリカは中国を抜き、新型コロナウイルスの感染者数が世界最多となった。