スティーブ・ジョブズは、毎年、技術の棚卸しをして、製品に採用できそうな新技術を常にウォッチしていたと言われています。われわれもそういった旬になりそうな新技術に目を注いでおくことで、他社に遅れることなく商用導入を実現することができるのです。そして、商用導入に至らない技術に対しては、試作を多数行うことで、即座に商用化できるようにしておくのが重要なのではないでしょうか。
新メニュー開発のための「文法」
もちろん、新しいメニューは、多くの試行錯誤の末に完成するものの、時にはシェフが期待したほどの人気メニューにならないこともあるかもしれません。このあたりも技術者と同じ苦労ではないかと思います。
私は、30年以上にわたってデジタル技術を基盤にした研究開発、特に新たな一般ユーザ向けのプラットフォームを、ナノミクロンの基礎半導体から地球スケールのクラウドサービスに至るまで、長期スパンで開発するような仕事をしてきました。そのなかで、「新メニューの開発」にはいくつかの「文法」があるのではないかと考えてきました。それを、世界で戦いたいと思っている皆さんと共有したいと思います。
料理とは、基本的に、肉や魚介や野菜や果物などの素材を、香辛料や調味料や油などで「加工」する作業です。このときに、素材を替えることによる新メニュー開発というテクニックがあります。
1つの文法としては、前菜の定番の1つである「生ハムとメロン」という組み合わせ。例えば、この素材を変化させ、「果物+やや脂の多い肉系素材」という一段抽象度の高い関係性に置き換えてみます。すると、「桃と豚背脂」のようなメニューのバリエーションを創造することができます。
暖かいものを冷たい料理として出してみるという、「物理パラメータを逆にする」文法も参考となるかもしれません。技術開発においては、欠点と思われている物理特性を、逆に積極的に活用するような例が、それに当てはまりそうです。
今日では、一大産業基盤をなしている半導体もその好例でしょう。半導体は、金属のような電流を良く通す導体と、逆に電流を全く通さない不導体、そのどちらでもない中途半端な素材であると考えられ、注目されていませんでした。
ところが、不純物が混じっている半導体は、その不純物内にある電流運搬の担い手を制御することで、導体にも不導体にもできなかった物理現象を実現できることが判ったのです。いまでは、ラジオやテレビ、コンピュータやスマートフォンでも活用されることとなりました。